高市早苗首相の「台湾有事」をめぐる発言から、中国が反応を強めている。
中国外務省の報道官は2025年11月27日、戦後日本の領土整理を定めたサンフランシスコ平和条約について「中国やソ連など第2次世界大戦の主要当事国を排除した状態で結ばれた」として無効を主張。12月1日には林剣副報道局長が尖閣諸島(中国では釣魚島と表記)について「中国固有の領土」と主張した。
日本のSNSでは「だから国際司法裁判所に行こうよ」といった「ツッコミ」が上がっている。なぜ、このような事態となったのだろうか。
日本の首脳が台湾問題に慎重な発言を繰り返してきたわけ
騒動の発端は、2025年11月7日、衆院予算委員会で高市首相が台湾有事について、2015年の安倍政権で成立した安全保障関連法による、集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」について質問され、「戦艦を使って、武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になりうるケース」と答弁したことだった。
この安全保障関連法が施行されてからの日本の首相は、存立危機事態について明言を避けてきた。
それは1972年に日中共同声明を発表して以降、中国が「台湾は中国の一部である」という主張に完全な同意をしない、慎重な態度をとってきたことに連なるものである。
さらに遡って1951年に、サンフランシスコ平和条約で、台湾の帰属先を明らかにしないまま放棄したかたちをとったため、その後も台湾問題を明言しない姿勢をとり続けてきたのだ。
今回の高市発言は、そうした過去の首脳の姿勢を、大きく踏み越えたものであったのだ。
「琉球は日本ではない」は「意趣返し」?
中国外務省は「内政への乱暴な干渉」と反発。11月13日、孫衛東外務次官は日本の金杉憲治・駐中国大使を呼び出して抗議を行った。
さらにその2日後の15日には中国共産党の英字新聞『チャイナ・デイリー』が、「琉球(沖縄の旧称)は日本ではない」とする記事を発表した。
その間に中国が訪日客への渡航自粛や水産物の輸入停止などの対抗措置をとるにあたり、「従来の政府の立場を変えるものではない」(11月18日、木原官房長官発言)と撤回を避けながらも、軌道修正をはかりつつあるように見える。
11月26日に行われた国会の党首討論で、高市首相は立憲民主党の野田佳彦代表に「台湾の法的地位を認定する立場にはない」と明言。その根拠が、前出のサンフランシスコ平和条約であった。
この首相説明に対抗して中国側から出てきたのが、冒頭のサンフランシスコ平和条約否定発言だ。条約で日本が放棄した領土には含まれず、1972年の沖縄返還協定で、米国施政下を経て日本の施政権が回復した沖縄と尖閣諸島への発言だった。
つまりこれは、高市発言への「意趣返し」だったと見ることもできる。
高市発言は「一線を踏み越えた」ととられている?
SNSではこれらについて「サンフランシスコ平和条約が無効なら、台湾は日本のままになるけどいいの?」と中国の発言に突っ込む意見が多く見られた。
中国側の論点は、台湾問題に関連づけて中国の"歴史的枠組み"、いわば国としてのドグマを提示するもので、突然湧き上がったものではなく、過去にも散発的に見られる論調なのだ。
ただ、これを「中国の発言は、いつものこと」で済まして良いのだろうか。
名目GDPで日本の約4.5倍の規模を持つ中国に対して、この状況が続けば、日本経済に多大な影響が出ることは間違いないと言われている。
さらに、アメリカのトランプ大統領が中国の習近平国家主席と電話会談を行ったうえで、高市首相に自重を求めた、と米国のメディアが報じていることからも、世界から高市発言が「一線を踏み越えた」と見られている可能性が高いのだ。
歴史的事実に基づく丁寧な情報発信と、国際社会との安定した対話を、今後いっそう考えていくべきだろう。