「チンパンジーが配属されてきたら、あなたはどうマネジメントする?」。こんなタイトルで書かれたブログについて、労務管理ソフトを手がけるIT企業「SmartHR」(東京都港区)が、「人を異なる動物に例えたように映る表現」だったとして削除したうえ公式サイトで謝罪した。
ブログは、同社従業員のウェブエンジニアが書いていた。ただ、実際のチンパンジーが社内で配属されたとする状況について述べており、人を例えたようには思えなかったとの声もあった。どんな基準でNGと判断したのだろうか。
「本当の類人猿のチンパンジー」との想定だったが...
このブログは、名古屋市内のIT企業が手がけるエンジニア知識共有サイト「Qiita」で2025年12月2日に投稿された。1日からクリスマスの25日まで期間限定で行われている投稿イベント「アドベントカレンダー」の一環だ。
5 人で作るソフト開発チームのマネジャーが、「極端なシナリオ」の下で何をすべきかを考えるという設定で、ブログがスタートする。この会社で社長が配属を決めたのは、「特定の人物の婉曲表現ではなく、本当の類人猿のチンパンジー」との想定だった。社長は会議で、握力が312キロもあるチンパンジーは会社の助けになるとし、3か月後の配属を告げた。
ブログではまず、「マネジメントが失敗する場合」を挙げた。マネジャーはこの場合、総務部などが準備してくれると何もやらず、配属初日を迎える。人の言葉もある程度分かるが時に狂暴になるチンパンジーで、早速パソコンのマウスを壊してしまう。その後も、指示に従わないなど様々な問題を起こし、メンバーが襲われて流血事態になった。他のメンバーらも、指を嚙み切られるなどして、警察が呼ばれてチンパンジーは射殺された。
メンバーが相次いで退職し、アプリ開発も止まってしまう。飼い主が会社に出資していたことが分かり、チンパンジーの死で融資も止まる。最後は、メディアが報じてネット炎上し、会社が倒産してマネジャーが路頭に迷う、という結末だった。
一方、「マネジメントが成功する場合」は、スタートからマネジャーの対応が違っていた。
「多様な声をいただいたが、不快な思いの方がおられた」
マネジャーはまず、チンパンジーの配属発表日に社長へ聞きに行き、出資者のペットだと知る。そして、総務部などと部門横断の対策チームを作り、飼育員に聞き取りして行動特性などを把握した。そして、動物園と顧問契約をして、社内に飼育室も作る。チンパンジーは、警戒心が強くて狂暴だったが、メンバーが世話して心を開いた。パソコンのマウスをその握力で粉砕したことに目を付け、会社のPRに一役買ってもらう。
ネット上でバズって、メディアも取材し、社長は、「チンパンジーとともに働くことさえ可能であれば、つまり私たちは、あらゆる人と協業できる可能性を証明したことになる」と説明した。チンパンジーは、ライブ配信で月100万円を稼ぐようになり、マネジャーは社長から賞賛される、というハッピーエンドで終わった。
こうした内容のブログについて、SmartHRは、12月8日になって、「不適切なブログ記事公開に関するお詫び」などとするお知らせを公式サイトに出した。
そこでは、「不適切な表現や内容が含まれていた」と謝罪し、「弊社内における情報発信に対する指導・管理体制の甘さ、およびチェック体制の不徹底が、今回の事態を招いた最大の原因であると認識しております」と説明した。
「特に、人を異なる動物に例えたように映る表現について、多くの皆様にご不快な思いをさせてしまった」として、ブログを削除したうえで再発防止策を取ることを明らかにした。
同社が謝罪したことについては、様々な意見が出ている。
「人間をチンパンジーに喩えて話をしている」「配慮に欠ける表現だ」といった声が出て、特に労務管理関係者からは、欧米の基準では動物を職場に配属とする表現自体が問題視されるとの指摘が出た。
その一方で、「『チンパンジー=変な人』の隠喩には感じなかった」「人間社会の課題も見え隠れ、考えさせられます」との好意的な受け止めも多く、意見が分かれている。
SmartHRの広報担当者は9日、J-CASTニュースの取材に対し、こう説明した。
「多様な声をいただきましたが、不快な思いをされている方がおられたのは事実です。当社の認識が甘かったと考えており、真摯に受け止めてお詫びさせていただきたいと思っています」
(J-CASTニュース編集部 野口博之)