「定数削減法案が採決されたら、造反せざるを得ない」と自民党議員からも 「会期末に向けて、維新がどう出るか」

   臨時国会の会期末を2025年12月17日に控え、自民・維新両党が提出した「定数削減法案」の今国会中の成立が絶望的な状況で、年明けの通常国会で継続審議となり、実質的には「棚上げ状態」となりそうだ。各党間では、選挙制度改革の議論が盛り上がっており、年明けには、衆院議長の下に設置された選挙制度改革に関する協議会で、中選挙区連記制や都道府県比例代表制などを軸とした具体案が審議され、来年にも30年ぶりに新しい選挙制度が実現する可能性が出てきた。

   超党派議連の幹事長として、各党の選挙制度提案を調整する福島伸享代議士に聞いた。

(ジャーナリスト・菅沼栄一郎)

  • 福島伸享氏のプロフィール 4人の無所属議員で構成する「有志の会」のメンバー。2009年民主党から初当選。東大農学部農業経済学科卒、経産省(当時の通産省)入省。衆院選挙制度の抜本改革を目指す超党派議連(約200人)幹事長。(菅沼栄一郎撮影)
    福島伸享氏のプロフィール 4人の無所属議員で構成する「有志の会」のメンバー。2009年民主党から初当選。東大農学部農業経済学科卒、経産省(当時の通産省)入省。衆院選挙制度の抜本改革を目指す超党派議連(約200人)幹事長。(菅沼栄一郎撮影)
  • 「定数削減法案」の今国会中の成立が絶望的
    「定数削減法案」の今国会中の成立が絶望的
  • 福島伸享氏のプロフィール 4人の無所属議員で構成する「有志の会」のメンバー。2009年民主党から初当選。東大農学部農業経済学科卒、経産省(当時の通産省)入省。衆院選挙制度の抜本改革を目指す超党派議連(約200人)幹事長。(菅沼栄一郎撮影)
  • 「定数削減法案」の今国会中の成立が絶望的

「定数削減法案」はたなざらしになる可能性

――先のインタビューで、福島さんは定数削減について「会期末ぎりぎりに法案が提出されて審議未了になる」との見立てでしたが、その通りになりそうですね。

定数削減法案は先週末に提出されましたが、まだ、政治改革特別委員会に付託されていません。12日11日に衆議院を通過しないと、会期内での成立は望めません。このままでは年明けの通常国会に持ち越されることになりそうですが、1~2月は来年度予算審議で手一杯ですので、「たなざらし」状態になるでしょう。
維新の姿勢に嫌気がさしたのか、こないだの土日(6,7日)には、自民党議員から「野党がんばってくれ」とか「定数削減法案が採決されたら、造反せざるを得ない」などの電話やメールがいくつも来ました。彼らは、決して定数削減がイヤだと言っているのではありません。民主主義の土台である議員定数について、国会で合意されなくても自動的に定数が削減されるようなトンデモナイ法案を共同で提出させられるような下品なふるまいを、与党の矜持として許せないのです。

―― 「身を切る改革」と強調した維新は、定数削減を「連立のための一丁目一番地」と条件を付けていましたが、「連立離脱」の可能性もありますか?

「身を切る」ということが、国民からお預かりした税金を戻す、ということならば、維新がもらっている政党交付金を返上したらどうでしょうか。定数の「一割削減」と言えば約30億円になりますが、維新がもらっている政党交付金もちょうど30億円余りです。キャバクラに使っているくらいなら、受け取らなければいい。私も無所属ですから、政党交付金は受け取っていません。
一方で、会期末に向けて、維新がどう出るか、なお見えない部分もあります。(どこまでも与党についていきます)「下駄の雪」となるのか、あるいは定数法案の成立が見通せないなら「連立離脱」に踏み切るのか。維新はこの法案を「ゆすりたかりの道具」として使っている、と私は批判してきましたが、予算関連で自民党から何かを引き出せる見通しがつくのか。そこらへんを見ています。一つの年末の政局の焦点になるでしょう。

「中選挙区連記制」など新制度の導入議論がにわかにクローズアップ

―― 一方で、5日に開かれた超党派の選挙制度改革議連(福島幹事長、約200人が参加)では、各党・会派から私案も含めて8つの提案が出されて、活発な議論が交わされた。

大まかに言って、「中選挙区連記制」、「都道府県比例代表制」、共産党の「ブロック別比例代表制」の3つに分けられます。自民党も維新も中選挙区連記制を議論しているとの表明がありました。比例でいえば、都道府県かブロックの単位だし、都道府県単位で党名でも人にも投票できる非拘束名簿式比例代表制なら事実上の中選挙区制です。一部の党は私案段階ですが、議長の下の選挙制度協議会では年内にそれぞれ党内の案をとりまとめて発表することで合意しています。年明け以降、各党の提案を協議会で議論すれば、春には合意することが十分可能だと私は思います。

30年ぶりの選挙制度改革が実現するか

―― 超党派議連の参加者が200人と衆院議員の半数近くに増えて、選挙制度の改革機運が盛り上がってきたように見えます。選挙制度改革が実現すれば戦後80年で2回目のことになります。ただ、議員心理というものは、自分が選ばれた選挙制度を変更することに拒否反応を示すものではないですか?

選挙制度の変更に抵抗する議員は当然いると思います。今の制度(小選挙区比例代表並立制)で、一番得をしている政党は立憲民主党です。政党支持率が一桁なのに、3割くらいの議席を獲得している現状があります。二大政党制に見合った小選挙区制度では、野党第一党であれば与党への批判票が自動的に集約しやすいため、政党支持率以上の議席を獲得する確率が大きく、ほかの中小政党への支持は「死票」となっています。だから、野田佳彦代表や安住淳幹事長は批判的なのです。ただ、立憲民主党の中にも、超党派議連で中選挙区連記制を提案した階猛議員や津村啓介議員のように党の利益を超えて選挙制度改革に熱心な議員はかなりいます。
30年前に中選挙区(単記)制から小選挙区制に変えようとした時は、一つの選挙区での複数の当選者を一人に減らそうとしたため、選挙区調整がものすごく大変になった。しかし、「小から中」になると、選挙区は広くなって大変かもしれないが、候補者調整は必要ない。比例名簿に順位をつけてもいいし、「非拘束式」として候補者名で投票できるようにしたり、政党が選ぶことができるシステムにもできます。中選挙区から小選挙区に変えるよりも調整はしやすいと思います。

公職選挙法や政治資金規正法強化をやるべき

―― かつての中選挙区制には、「選挙にカネが使われる」という批判がありました。

企業献金の禁止または制限と選挙制度改革はワンセットと考えています。通常国会で村上誠一郎・前総務相と国会で議論したことですが、平成の政治改革で選挙制度を変えたからお金がかからなくなったのではなくて、連座制を強化したから選挙でお金を使うようなことがなくなった、と言っていました。つまり、選挙制度とカネの問題は直接関係なく、むしろお金の使い方の「総枠規制」など公職選挙法や政治資金規正法強化でやるべきだと。例えば、一選挙区で年間2000万円しか政治活動に使えない、と規制すれば、1億円集めても仕方がない、となります。

―― 自民党内の空気はどうでしょうか? 定数削減法案をめぐっても、「1年たってもまとまらなければ45議席削減」とか、維新のごり押しが目立ちます。

維新の議員と自分たちはちょっと違うな、という気分が、自民党内に広がってきたような感じがします。会期末までの1週間に、それが「連立離脱」まで行くのか。そうすると、年明けの風景は変わりますが、一方で、公明党や国民民主党など、政策連携できる相手はいるし、ちょうど一年前の石破政権と同じ、少数与党の状況に戻るだけとも、言えます。
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