高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ 愚策すぎる「おこめ券」、農水官僚はなぜこんなことを思いつくのか

   農林水産省が2025年10月末、26年産の主食用米の需給見通しを発表した。生産量の目安は711万トンで、25年産の収穫見込みと比べて減産となった。今の鈴木憲和農水相は、石破茂前政権が掲げたコメ増産を事実上撤回し、従来の「需要に応じた生産」に戻した格好だ。

  • 鈴木憲和農水相。「おこめ券」構想は、なぜ浮上したのか(写真:つのだよしお/アフロ)
    鈴木憲和農水相。「おこめ券」構想は、なぜ浮上したのか(写真:つのだよしお/アフロ)
  • コメの需要量予測は難しい(写真はイメージ)
    コメの需要量予測は難しい(写真はイメージ)
  • 鈴木憲和農水相。「おこめ券」構想は、なぜ浮上したのか(写真:つのだよしお/アフロ)
  • コメの需要量予測は難しい(写真はイメージ)

「時期的な需要を平準化するための手段」としての「おこめ券」

   鈴木大臣は元農水官僚なので、テレビのコメンテーターではかなわない知識量があり、大方の人を軽くいなしている。

   ただし、鈴木大臣のいう「おこめ券」について、一部の自治体は以前から配布しているが、事務コストがかかり現金の方がいいなどという批判が出ている。

   おこめ券はこれまでのコメ行政から出てきたものだ。

   鈴木大臣は、需要量見通しについて相当の自信を持っているようで、下方修正された生産量でも「余裕をもって設定した」し、「需要に応じた生産」という。その背景として、生産が需要を上回り、米価が下落することに強い警戒感があるようだ。

   農水省はコメの需要見通しは当たると、建前を頑なに崩さない。なにしろ需要見通しのために、食料・農業・農村政策審議会で18名の有識者を集めている。そのため、需要見通しは当あたることを前提として、仮にコメ価格の上下があっても需要の「一時的な変動」であり、時期が過ぎれば価格は落ち着くという説明に終始する。その結果、時期的な需要を平準化するための手段としておこめ券がでてくる。

原資をコメ農家への直接所得補償に回した方が「よほどスッキリ」

   しかし、24年度でも需要量は当初の政府見通しでは674万トンであったが、9月時点では711万トンという見通しになっており、当初は過小需要見通しだった。

   このように政府による需要見通しは当たらない。というか、当てることは無理だ。というのは、政府の需給見通しがうまく当たるのであれば、それを使ってコメ先物市場で儲けることができるが、そんな話は聞いたことがない。かつては需要量の過大見通しが多かったが、最近数年では過小見通しが多く、例えばここ3年間では需要が生産を上回る超過需要は20~40万トンになり、それが結果としてコメ価格の10~60%の上昇につながっている。

   コメの需要見通しが当あたらないことを認めれば、需要に生産を合わせる「減反」も意味ない、となる。その上で、コメ農家を守るとなれば一定の直接所得補償をして、コメ価格が下落しても上昇しても一定の所得が確保できるにしたらいい。

   「減反」に要するカネが4000億円、今回おこめ券へ「重点支援地方交付金」 4000億円が特別枠として渡される。ざっくりいえば、このうち7000億円程度はコメ農家、1000億円程度はJAなどの流通者に落ちるだろう。

   当たらない需要見通し、それに基づく減反、流通者支援のおこめ券もやめて、7000億円をコメ農家への直接所得補償に回したほうが、よほどスッキリしている。


++高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはしよういち)元内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長 1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。21年に辞職。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。

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