高市早苗政権の発足後、記者会見で閣僚と記者のかみ合わない応酬が顕著になっている。
高圧的な態度で質問に答えない閣僚と、長々と持論を展開する記者との間に繰り広げられる泥試合は、YouTubeやTikTokの再生数稼ぎとして拡散され、「オールドメディア」批判に利用される結果となっている。
フリーの男性記者と小野田紀美氏の間で応酬
記者会見での強い姿勢が目立つのが、小野田紀美経済安保担当相だ。2025年12月19日の会見で、フリーの男性記者から旧統一教会に対する見解を問われたところ、こう一蹴した。
「何もコメントはございませんし、この場というのは私の所管に関することを、省庁の意見をしっかり所管の大臣としてお話しする場所で、あなたの意見を語る場所ではございませんので、そのへんはご留意ください」
バトルはそれだけで終わらない。
同じ記者から中国にレアアース禁輸措置を取られた場合の損害額や対応策を問われると、小野田氏は「具体的な事態に対する仮定の質問にはお答え致しませんが、我が国も世界の各国も、特定国に依存することへの危険性を認知し、同志国の間で対応を話し合っております」と答えた。さらに記者が、
「レアアース輸入停止の被害額はご存じないのか」
と食い下がると、小野田氏は、
「仮定の質問にはお答え致しません」
と突き放した。
小野田氏の態度にSNSでは、「何でここまで不貞腐れた態度とるんだろうね」「終始上から目線」「仮定の質問に答えられないなら台湾有事についても答えられないはず」と批判の声も目立つ。一方で、フリーの男性記者に向けて「あなたの質問には答えませんて言いたかったんやろね」との見方もある。
茂木敏充外相「質問の趣旨がよく分からない」
高市政権における閣僚と記者の応酬は他にも起きている。
12月23日の会見で片山さつき財務相は、ウェブメディアの男性記者からのアベノミクスへの評価を巡る質問に、「その前に我々が受け継いだ(民主党)政権の株価がいくらだったか、為替がいくらだったか思い出していただきたい。こういう状況が続いてたら、じゃあより良い経済になったとはありえないと思いますので」と述べた。記者が「それは13年前ですが」と口をはさむと、片山氏は、
「すいません、私まだしゃべっているんですけど。失礼ですよ」
と釘を刺した。
また、19日には茂木敏充外相の会見でも、かみ合わないやり取りがあった。
米政府が観光客にSNS利用情報の提出を義務付ける規制案を進めていることについて、ウェブメディアの記者が日本国憲法やSF小説を持ち出して持論を展開。茂木氏から、
「ちょっと質問の趣旨がよく分からないのですが、日本国憲法で『思想及び良心の自由』が保障されていると、これは日本の話だと思うんですけれど。日本国憲法が米国で守られるべきであると、こういう趣旨なんでしょうか」
と呆れられる始末となった。
これら閣僚の会見動画はいわゆる「切り抜き動画」としてSNSで拡散。「また現れた迷惑記者」「記者をスカッと完全論破」「さつき姐さんが迷惑記者をぶった斬る」などと喝采を送るようなタイトルやテロップがつけられ、再生数稼ぎのコンテンツとして消費されている。
高市氏の「支持率下げてやる」と報道陣の声が漏れる
このような傾向に加え、高市政権はメディアの取材対応よりもSNS発信を重視しているとの見方もある。北海道新聞は22日、石破茂前首相や岸田文雄元首相と比べて「ぶら下がり取材」が大幅に減ったと報じた。
ただ、メディア側にも高市政権やその熱烈支持者につけ込まれる原因を作った失態がある。高市氏が自民党総裁に決まった直後の10月、囲み取材の前にインターネット上の生中継で「支持率下げてやる」「支持率下げるような写真しか出さねえぞ」と雑談する報道陣の声が流れてしまい、激しい批判を浴びた。
今年の新語・流行語大賞には「オールドメディア」がトップ10入りした。SNSでは高市政権の賞賛とメディア批判のショート動画がエンタメとして消費され、メディア側は分が悪い状況になっている。