制作したイラストが本人の許諾を得ずに実在の女性の写真を無断でトレースしていたとして波紋を広げた漫画家の江口寿史氏が2025年12月30日、約3か月ぶりにXを更新し、謝罪と釈明を行った。
イベントビジュアルは「制作過程に問題」と撤去
発端となったのは、江口氏が手掛けた「中央線文化祭2025」の告知ビジュアルだった。メインビジュアルとして描かれた女性について、江口氏がインスタグラムで流れてきた女性をモデルにし、本人の了解なしに用いていたことが判明した。
作品を掲示していたルミネ荻窪は10月3日、「制作過程に問題があったと判断」として該当ビジュアルを撤去。6日に江口氏の告知ビジュアルを今後使用しないと発表し、江口氏が登壇する予定だったトークショーも中止した。
この問題をきっかけとして、桜美林大学やZoff、セゾンカードなど、江口氏がこれまでに手がけた商用イラストについても「トレパク」疑惑が浮上する事態となった。
問題発覚後はSNSでの発信を行っていなかった江口氏だが、12月30日、約3か月ぶりにXを更新し、思いを明かした。
「弁護士を通じて双方合意の上、和解しております」
発信までに間が開いた理由については、「各所との調整が長引き、自分の言葉でお伝えするのにここまで時間を要してしまいました」と説明。
発端となったイラストについては、「ポスター発表直後にご本人からの指摘がルミネに届きまして、ただちにDMにてご本人に連絡を取って謝罪し、その後弁護士を通じて双方合意の上、和解しております」という。
江口氏は関係者らに謝罪した上で、「この件を発端に起きた騒動は、トレース、トレパク問題の方に拡がり、更に大きなものになっていきました。雑誌の写真やネットの画像を参考にしたり、トレースと呼ばれる表現手法自体を『悪』だとする声やご意見も多数ありました」と続けた。
「トレースというのは絵を描く上での正当な段階のひとつであり、『トレース=盗用行為 すなわち悪』、『トレース=すべてトレパク』という一面的なものでもありません」と主張し、「私の場合は下描きの最初期の第一段階と考えています」。トレースした「アタリ」を元に下描きを重ねていくため、「参考にした写真から人物の構図、輪郭などを修正して自分の絵に変換していく作業」を経ているとした。
「業界的にも過去から現在にかけて普通に行われてきたという認識」
生成AIを使用しているのではないかとの指摘については、「私はそういったツールは一切使っていません」と否定し、「下描きからペン入れはすべてアナログの手描きです。着色作業にのみPhotoshopを使っています」とした。
「写真を参考に描くことについては、イラストよりも漫画を多く描いていた頃からやってきたことで、業界的にも過去から現在にかけて普通に行われてきたという認識」とも主張。「正直なところ、それが問題にされるという認識は持てていませんでした」とした。
「今回の一件の最大の問題は私にその事への認識と配慮ができていなかったこと」として、「40年以上も前のおおらかな時代の、20代の頃の自分の未熟な認識のまま無自覚に変わらぬ方法で製作を続けていました」と振り返った。
弁護士に相談した上で、トレース自体には法的な問題がなかったことを確認したとも主張した江口氏。「仮に法的に問題ないとしても、参考にした写真には被写体の方がいて、知らないところで自分の姿や輪郭に似た絵が描かれたら、不安を感じたり、気分を害されたりする方もいる。ある意味、そんな当たり前のことにも十分な配慮ができていませんでした」と反省をつづった。
「今回の件では改めて自らの表現手法を振り返り考える機会をいただきました」とした上で、今後もイラスト制作を続ける意向を示している。
江口です。この秋の一連の騒動につきまして。 pic.twitter.com/Ng6C4fxP9q
— 江口寿史 (@Eguchinn) December 30, 2025