暴露系インフルエンサーによる暴力動画拡散でいじめ「陰湿化」の可能性 「痕跡消去型」や「なりすまし」に専門家懸念、対策も提言

   SNS上で、中学・高校でのいじめ・暴力動画の拡散が相次いでいる。注目を集めた動画は主に、いわゆる暴露系インフルエンサーが投稿したものだ。インターネット上で加害者に社会的制裁を与える「私刑」による解決方法に問題点や懸念点を示す声が寄せられる一方で、いじめの抑止力になるとして称賛する声も上がっている。

   専門家は、暴露系インフルエンサーに頼るいじめの解決方法が広がれば、今後、動画などの証拠が残らないいじめや、被害者を「加害者」や「問題児」に仕立て上げるようないじめの手法が増えていく可能性があると警鐘を鳴らす。

  • SNSで暴力動画が拡散している(画像はイメージ)
    SNSで暴力動画が拡散している(画像はイメージ)
  • 栗本顕氏。代表を務める「いじめ撲滅委員会」と同名の団体の立ち上げを暴露系インフルエンサーが発表したが、無関係だ。
    栗本顕氏。代表を務める「いじめ撲滅委員会」と同名の団体の立ち上げを暴露系インフルエンサーが発表したが、無関係だ。
  • SNSで暴力動画が拡散している(画像はイメージ)
  • 栗本顕氏。代表を務める「いじめ撲滅委員会」と同名の団体の立ち上げを暴露系インフルエンサーが発表したが、無関係だ。

文部科学省も事態を問題視...緊急オンライン会議を開催

   2026年1月4日頃には、栃木県立高校のトイレで男子生徒が別の男子生徒に暴行を加える動画が拡散。8日には、大分県大分市立の中学校で男子生徒が別の生徒に暴行を加える動画が拡散した。これらは、暴露系インフルエンサー「DEATHDOL NOTE(デスドルノート)」が投稿・拡散したとみられる。

   これを受け、各教育委員会が対応に追われているほか、文部科学省も事態を問題視。14日に全国の都道府県と政令市の教育長を集めた緊急のオンライン会議を開き、いじめや暴力行為について年度内に確認するよう求めたことが報じられている。

   SNSでは加害者への批判が過熱し、加害者のものだとする名前など個人情報も拡散。インターネット上で加害者に社会的制裁を与える「私刑」による解決方法に問題点や懸念点を示す声が寄せられる一方で、暴露系インフルエンサーを賞賛する声も寄せられた。

   デスドルノートの運営者・磨童まさを氏はXで「『学校でいじめられなくなった』というDMが毎日100件以上届いています」とアピール。これに、「学校や教育委員会よりも仕事してるね」「『いじめたら晒される』って可能性を植え付けるだけでこんなにも違うんだ」といった称賛の声が寄せられている。

   実際に、こうした動画や画像の拡散はいじめの抑止力になるのだろうか。いじめに関するカウンセリングなどを行う「いじめ撲滅委員会」代表で「メンタルヘルス総合サポート」代表取締役、「いじめ不登校自殺防止コンサルタント会」事務局長の栗本顕氏は、J-CASTニュースの取材に、「抑止力として期待される側面」と、「深刻なリスクと副作用」の2つの側面があると説明する。

「抑止力」期待される面もある一方...多くの問題点が

   栗本氏は、暴露系インフルエンサーによる動画などの拡散には、「『密室性』の打破」と「迅速な実害の付与」の効果があると指摘した。

   いじめは学校内など閉鎖的な空間で行われるため、隠蔽されがちだが、SNSでの拡散により社会の監視の目にさらされる。また、法的処置には時間がかかる一方で、ネット上での『社会的制裁』には即効性がある。

   栗本氏は、「『いじめをしたら人生が終わる』という恐怖が、一時的なブレーキになる可能性は否定できません」とした。

   一方で、暴露系インフルエンサーによる動画などの拡散という「私刑」による解決には問題点も多数あるとし、栗本氏は次の8つの点を指摘した。

「1、誤情報の拡散と冤罪:徹底的な事実確認が行われないまま拡散されることが多く、無関係な人が加害者として晒されるリスクがあります。
2、正義のエンタメ化:投稿者の目的が被害者の救済ではなく、再生数やフォロワー稼ぎ(収益)である場合、問題が過激に演出され、解決よりも『炎上』が優先されます。
3、二次被害の発生:動画が拡散されることで、被害者のプライバシーも守られなくなり、一生消えないデジタルタトゥーとして被害者を苦しめ続けることになりかねません。
4、教育現場の萎縮と陰湿化:晒されることを恐れた加害者が、カメラに映らない場所でより巧妙にいじめを行うようになるなど、問題が潜伏化する恐れがあります。
5、威力業務妨害:いじめが起きたとされる学校や加害者の親の職場に、視聴者が大量の電凸(抗議電話)を行い、本来の業務を麻痺させた場合。
6、強要罪・脅迫罪:インフルエンサーが加害者側に対し、『謝罪動画を撮らせる』『金銭を要求する』などの行為に及んだ場合。
7、誤特定による『冤罪(えんざい)』事件:煽り運転事件やいじめ事件の際、無関係な女性や店が「加害者の関係先」として拡散され、誹謗中傷が殺到。結果として拡散した側が数百万円単位の損害賠償を命じられる事件が起きています。
8、行き過ぎた制裁:ターゲットにされた人物(またはその家族)が精神的に追い詰められ、自死を選んでしまうという最悪の結果を招いたこともあります。この場合、インフルエンサー側が『教唆(きょうさ)』『追い込み』として法的な責任を問われるリスクが生じます」

今後のいじめはより陰湿に...可能性は「極めて高い」

   暴露系インフルエンサーなどによる動画などの拡散に頼る解決方法が広がれば、今後、いじめの手法は証拠が残りにくいより陰湿なものにシフトしていく可能性について、栗本氏は「極めて高いと考えられます」との見方を示している。

「暴露系インフルエンサーの介入や、SNSでの炎上リスクが認知されることで、加害者側は『証拠(動画やメッセージ)を残すことのリスク』を学習します。その結果、いじめがなくなるのではなく、『カメラに映らない、証拠が残らない方法』へと進化・潜伏化していくことが懸念されます」

   また、デジタル技術を悪用した「痕跡消去型」いじめにも警鐘を鳴らす。「SNSの機能を逆手に取り、後から検証できない形」で攻撃を行ういじめの手法だという。

   特に、「『なりすまし』による自作自演」には注意が必要とした。「なりすまし」による自作自演は、「被害者の名前でアカウントを作り、わざと問題のある投稿を繰り返させ、被害者を『加害者』や『問題児』に仕立て上げる(証拠上、被害者が悪く見えるように工作する)」ものだと説明した。

学校には「助けてもらえない」...「絶望感」から暴露系インフルエンサーに

   それでは、いじめに悩む子どもたちが、暴露系インフルエンサーに頼らなくても良い環境を作るためには、どうすればよいのだろうか。

   栗本氏は、いじめに悩む子どもたちが暴露系インフルエンサーに頼る最大の理由は、「『既存のシステム(学校、教育委員会、警察)を信頼できず、そこでは助けてもらえない』という絶望感にあります」と指摘。栗本氏は3つの観点から、こうした不信感を払拭し、子どもたちが安全に救われるために必要な仕組みを上げた。

   1つ目は、「『学校の自浄作用』に頼らない第三者機関の常設化」だ。栗本氏は、「現在のいじめ対応の弱点は、学校が『調査者』でありながら『責任者』でもあるという構造にあります」と指摘し、「不都合な事実を隠蔽したくなる動機を排除する仕組みが必要です」とした。

   例えば、「いじめの疑いが生じた段階で、教育委員会からも独立した弁護士、公認心理師、元警察官らによる調査チームが自動的に介入する仕組み」などだ。また、「暴行、脅迫、窃盗(物の破壊)などの犯罪行為については、学校の判断を待たず即座に警察や法務局と連携するフローを標準化」することも提案した。

   2つ目に、「インフルエンサー以上の『スピード』と『秘匿性』を持つ相談窓口」が必要だとした。栗本氏は、「インフルエンサーが選ばれるのは、DM一本で連絡でき、すぐに反応が返ってくる『タイパ(タイムパフォーマンス)』の良さもあります」といい、「公的な相談窓口もこの利便性を超える必要があります」とした。

   栗本氏は、子どもたちが普段使いしているUIでの相談環境として「24時間対応の匿名SNS相談アプリ」を提案。「証拠のスクリーンショットや動画を即座にアップロードでき、専門家がリアルタイムでアドバイスを行う」ことが必要だとした。

   また、証拠保全の法的サポートとして、「被害者が集めたSNSのログなどを、法的に有効な証拠として整理するのを手伝う『デジタル弁護士』のような存在を、無料で利用できるようにする」仕組みも挙げた。

   3つ目に、「被害者・加害者への『実効性のある』アプローチ」が必要だと指摘。「暴露系インフルエンサーは『社会的制裁(晒し)』を与えますが、これは被害者の安全を保障しません。法と教育に基づいた実効性が必要です」とした。

   例えば、いじめが確認された場合、被害者ではなく加害者に対し積極的に出席を停止の対応を取るなどだ。栗本氏は「加害者の通学を制限し、別室登校やオンライン授業に切り替える。これにより『被害者が損をする』現状を変える」と説明した。

姉妹サイト