通勤ラッシュを避けるため、指定席のある電車を利用する人もいる。ゆったり座って移動できる一方で、隣席との距離が近いからこそ、ちょっとした不快感が思わぬトラブルに発展することもある。
数年前、東京都下から東京駅近辺へ通勤していた山田久美子さん(仮名・50代)も、そんな体験をした一人だ。
寝不足の朝、隣席から聞こえてきた音
「体調が悪い日や、どうしても眠りたい朝によく使っていました」
山田さんが利用していたのは、当時運行されていた指定席のある電車だ。普段より目的地へ早く到着し、座って移動できるのが魅力だった。
前日の飲み会で寝不足だったその日も、「少しでも眠りたい」と思い、指定席に座った。窓側の席で、通路側には中年の男性がすでに座っていたという。
発車してしばらくすると、男性が何度も鼻をすする音が聞こえてきた。
「気にしないつもりでしたが、一度聞いてしまったらずっと気になってしまいました」
早く寝ようとするほど音が耳に残り、なかなか眠れなかったそうだ。
思わず出してしまった舌打ちから発展したやり取り
「一度でいいから、鼻をかんでくれたらいいのにと思っていたんです」
その気持ちが態度に出てしまい、思わず舌打ちをしてしまった。
「今、舌打ちしましたよね」
男性から突然声をかけられ、山田さんは驚いた。「すみません」と謝ったのだが――。男性は続けてこう言ったという。
「自分は鼻炎なんだから仕方ないでしょ。同じお金払ってるのに、なぜイヤな気持ちにならなきゃいけないんですか」
「でも、鼻をすする音が気になって眠れないんです」と山田さんも反論する。
「それは悪かったけど、いい年をして舌打ちはないでしょ。お互い気持ちよく乗りたいですよね」
やり取りはそこで終わり、男性は鼻にティッシュを詰めた。鼻をすする音は止まったが、山田さんは結局、終点まで眠れなかったようだ。
「最初からそうしてくれたらよかったのにという思いと、舌打ちをしてしまった後悔が残りました」
その夜、ネット上で相談すると、「鼻をすする音も不快だが、舌打ちはもっとイヤ」「イヤホンで自衛した方がいい」といった意見が寄せられた。
それ以来、山田さんはイヤホンを持ち歩き、周囲の音が気になるときは音楽を聴くようにしている。
「今でも舌打ちはよくなかったと思います。ただ、鼻をすする音が気になる気持ちも分かりますよね」
指定席という限られた空間では、ちょっとした不快感が表に出やすくなることもある。通勤時間をどのように過ごすか、考えさせられる出来事だ。