「逃げるのか」という言葉の圧力
佐藤さんが会議室に長時間こもる様子は、社内でもうわさになったという。
「辞めるってマジ?」
「相当揉めてるらしいよ」
喫煙所で話題になっていることが、後輩を通じて耳に入った。ひっそり退職するつもりが、いつの間にか注目の的になっていたようだ。
面接の中で、上司の言葉は次第に強まっていったという。
「逃げるのか」
「ここで逃げたら、どこへ行っても通用しないぞ」
「その実績で次がうまくいくと思っているのか」
佐藤さんは「毎日言われ続けると、『自分が逃げているだけなのかもしれない』という気持ちになりました」と振り返る。
閉ざされた会議室という空間で、否定的な言葉を浴び続けるうちに、感覚が鈍っていくようだったという。しかし同時に、退職の意思を示した社員に対して、深夜まで拘束する状況そのものに違和感も覚えた。
「辞める人に対して、ここまでやるのは普通なのか......と、冷静に考えるようになりました」
最終的には、強行突破だったそうだ。1週間の会議室での面談でも意思を変えなかったことで、上司も諦め、退職が決まった。