東日本大震災による福島原発事故でいったんは「2030年代に原発ゼロ」を目指した日本政府がその後「最大限活用」(岸田政権)に大転換、再稼働への動きが進む。果たして安全性は確保されているのか、これで大丈夫なのか。2026年3月11日のBS-TBSの「報道1930」はいくつかの疑問を示した。
燃料デブリ取り出しはわずか0.9グラム、廃炉まで何年かかるか分からない
福島県の原子力発電所の廃炉作業のなかで、溶け落ちた核燃料=燃料デブリがなお880トンある。これまでに取り出された量はわずか「0.9グラム」だ。
核廃棄物処理問題に詳しい小林祐喜・笹川平和財団主任研究員は「これから25年間で880トンをすべて処理するには、明日から毎日100キロとらなければ間に合いません。100キロといえば、近くに置いたら即死します。作業員の安全を考えれば、とんでもない放射線量です。できないことはできない、とそろそろきちんというべきです」と指摘した。
原発事故当時に原子力委員会委員長代理をしていた鈴木達治郎氏も同じ意見だ。「現在の廃炉法はあいまいなので、廃炉の定義や基金、そのためのロードマップなど、きちんと決めるべき時に来ている」という。
「原発推進」に転じてが、争点にならない安全対策
15年前に原発爆発事故が起きた直後に、当時の民主党政権は、「2030年代までの原発ゼロを目指す」とした。しかし、電力需要が拡大し、再生可能エネルギー生産が思うように進まない中で、安倍晋三内閣、菅義偉内閣は、再稼働を進めた。それでも、原発依存度を「可能な限り低減する」として、原発の新増設や建て替えは想定しないとの立場だった。これを岸田内閣が「エネルギー安全保障と脱炭素」を掲げて、「最大限活用する」に踏み切った。
しかし、国会では、原子力行政を議論する「常設」の委員会設置は見送られた。
この点を小林・主任研究員は、「国会の委員会では原子力行政のチェック機能が働いていない。エネルギーをどう供給するかは、国家安全保障に直結する大事な問題だが、これが選挙でも争点にならない。国会議員が関心を示さなくなってきている」と警告する。さらに、鈴木・元委員長代理は、「推進でも反対でも安全性にはそろって取り組むことができるでしょう」という。
EU委員長「原発縮小は戦略的誤り」発言は衝撃だ
3月10日、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は、パリの「原子力エネルギーサミット」での演説のなかで、これまでの取り組みを「戦略的な誤りだった」とした。「世界的に原子力エネルギーが復活の兆しを見せている。欧州もこの潮流に加わりたい」と述べたのだ。同氏は、小型モジュール炉(SMR)など次世代の原子力技術に投資するとした。
番組はこの発言も問題だと指摘、鈴木・元委員長代理は「世界は小型だからと規制は甘くなりがちだが、逆に、厳しくしなければいけない」と警告する。
(ジャーナリスト 菅沼栄一郎)