NHKの連続テレビ小説『風、薫る』の苦戦が続いている。初回の世帯視聴率は14.9%(ビデオリサーチ調べ、関東/以下同)と、朝ドラ史上ワースト2位タイのスタートとなった。第1週平均が14.3%、第2週が13.6%と下降線をたどり、第8話(4月8日)は13.1%、第14話(4月16日)も13.3%と低空飛行が続く。前作『ばけばけ』の初回16.0%からの落差は大きく、歴代最低となった『おむすび』の期間平均13.1%を射程に入れかねない状況だ。日本初の正規看護師(トレインドナース)を目指した女性たちの物語本作は、明治期に日本初の正規看護師(トレインドナース)を目指した女性たちの物語である。これは非常に強い軸になり得る題材だが、その訴求が序盤からほとんどできていない。通常ならオープニングに白衣のイメージを織り込んだり、タイトルビジュアルに医療的なモチーフをまぶすなど、「看護師の物語」と早い段階で印象づける仕掛けもできるはずだ。ところが本作にはそれが見当たらず、視聴者が何を見させられているのかわからないまま話が進んでいる。同作は一ノ瀬りん(見上愛)と大家直美(上坂樹里)のWヒロインで進められる。まずりんだが、彼女が看護師を目指す動機は、父・信右衛門(北村一輝)をコレラで亡くした際に助けられなかったという体験にあるとされる。しかし現状は、酒好きで冷淡な夫から逃げ出した展開を経て、東京の舶来品店「瑞穂屋」で働き始めているという状況にとどまっており、医療の道へ向かう気配が見えない。また、元武家のプライドの高さや、そそっかしい性格といった人物像も、いまひとつ輪郭が定まらないまま話だけが進んでいく。視聴者がりんに感情移入する手がかりが、序盤においてほとんど用意されていないのだ。もうひとりのヒロイン・直美を演じる上坂樹里さんは、2410人の中からオーディションで勝ち抜いた。従来の朝ドラファンがその成長を楽しみにしてきた存在であり、気の強さや英語堪能なキャラクターも的確に体現している。ただ、演技がすでに完成されているがゆえに、視聴者が手を差し伸べたくなるような「朝ドラヒロイン像」とは少し距離があるかもしれない。自然と応援したくなる可愛げも、今の段階では見えてこない。見上さんはNHKから直接打診を受けた起用で、大河ドラマ『光る君へ』などを経て知名度を上げてきた女優だ。朝ドラ主演は初であり、世間への浸透という意味ではまだ途上にある。その知名度の物足りなさを補うはずの物語や人物設定が、魅力を発揮できていない。結果として2人とも、「りんちゃん大好き」「直美ちゃんを推したい」という固定ファン層がSNS上でなかなか形成されていないのだ。売り出し中の2人を同時に世間へ浸透させようという構図自体に、そもそも無理が生じているとも言える。始まったばかりだが、道は険しい。(川瀬孝雄)
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