ラディカル・フェミニズム(急進的フェミニズム)をテーマにした劇団「TremendousCircus(トレメンドスサーカス)」は2026年4月8日、10日に府中市中央文化センター内の劇場で予定していた公演について、市の業務委託先の協力会社代表の男性から「著しいハラスメント」を受けたとして、この会場での公演を中止にすると発表した。
市はJ-CASTニュースの取材に対して、ハラスメントを否定する一方で、劇団側に「不快な思い」をさせたことを謝罪。一体何があったのか。
「知ったような口を利かないでください」
J-CASTニュースの取材に応じた劇団員のたまえさんと遥香雛さんによると、2人は3月12日、下見と打ち合わせのため会場を訪れた。
打ち合わせの場に通されて早々、たまえさんが蓋つきのコーヒーを手にしていたことから、委託先の協力会社代表の男性A氏は「飲み物だめだよ?」と強い口調で叱責したという。なお、事前に飲み物持ち込み禁止などは伝えられていなかったとした。
さらに、当日の照明や音響について説明する中で、「音響は内部の人間がやって、照明はプロの方にお願いする予定です」と話したところ、A氏は「プロの方って」と鼻で笑うように話した。そして、
「あなたはまだ若いので知らないと思いますが、私は何年も舞台専門でやってるんで。若いのに知ったような口を利かれると、こっちも協力する気がなくなるんですよ。舞台を成功させたいですよね? だったら知ったような口を利かないでください」
「そっちがそういう態度だったらこっちもこういう態度になっちゃうよ。ここで公演したいんですよね? だったらまず関係性築いていかないと」
といった言葉を強い口調で言い放ったという。
たまえさんは、「知ったような口をきいてもいないし、普通に受け答えをしただけ」という。A氏の態度について「すごく怖かった」と当時を振り返った。「若い女性が2人だったから、めちゃくちゃなめられていた」と感じたとも話す。
また、遥香さんは、打ち合わせ中にスマートフォンでメモを取りたかったが、A氏に「怒られるかもしれない」との恐怖から、スマートフォンを取り出すこともためらわれたと話した。
さらに、照明に関する資料を求めたところ、照明の個数や位置を記載した「照明基本仕込み図」のみが手渡されたという。機材リストや回線表などは渡されず、公演に必要な情報が揃わなかったとする。
「安全な公演実施が物理的に不可能に」...「心残り」あるも苦渋の中止決断
劇団代表の第六天魔王知乃さんや、市中央文化センターとやり取りをしていた田中円さんによると、この出来事を知った田中さんが、中央文化センターに抗議し、担当を変えてほしいと訴えた。しかし、中央文化センターから送られてきたメールアドレスは、A氏が代表を務める会社のものだったという。
また、中央文化センターの担当者からは、メールのやりとりの中で「当市委託事業者とのやり取りの中で、結果としてご対応された方に不快な思いをさせてしまいましたことにつきましては、心よりお詫び申しあげます」との謝罪は受けたが、A氏の言動の事実関係を認め、ハラスメントだと認定することはなかったとした。
第六天魔王さんはこうした市の対応について、「『意図的な加害』を否定し、『受け取り側の主観的な不快感』の問題に矮小化して責任を逃れる、行政特有のすり替え」だと、怒りをあらわにした。
中央文化センターの対応やA氏には不信感を抱いたが、公演の告知をしていたこともあり、会場を変えることはせずに準備を進めた。協力会社とは、中央文化センターの所長を介してやり取りをすることになった。しかし、音響や照明の技術的な内容についてのやり取りは、スムーズにいかなかったという。
最終的には会場から、劇場の主要設備であり、公演において欠かせない照明の制御システム「DMX回線」の利用禁止や、「音響のメイン卓を、専門知識のない事務職である所長が立ち会い、照明担当者に操作させる」といった対応を告げられたという。
第六天魔王さんは、「プロの現場において、素人が音響マスターを握ることは重大な事故(観客の聴覚被害など)に直結します」と訴える。第六天魔王さんと田中さんは、「安全な公演実施が物理的に不可能にされた」と判断。本番2日前だったが、中央文化センターでの公演の中止を決断した。
中止になった公演は、8月に別の会場で上演することが決まった。しかし、遥香さんは、「今の形ではもうできないので、(延期の公演は)楽しみな面ももちろんありますが、今の状態のものを今出したかったなという心残りはめちゃめちゃあります」と悔しさをにじませた。
たまえさんも、劇中のセリフや歌は調整が入ると説明し、「演劇って生物なので。特に、今の状態を今出せるというのが私たちの強みだったり魅力だったりするので、それを損なわれたのが大きな痛手だなと思います」と話した。
第六天魔王さんはこの件について、弁護士に相談することを検討しているという。
A氏は一部発言認めるも「執拗な叱責」は否定
府中市市民協働推進部地域コミュニティ課は、A氏の言動について、J-CASTニュースの取材に次のように説明した。
「関係者間で認識に相違がある状況であり、主催者様が主張される個別の発言や行為を確認するには至っておりません」
A氏は市のヒアリングに対し、「お若いからあまり経験がないかもしれませんが」等の発言があったことは認めているが、「あくまで、公演を円滑に進行するために必要な意思疎通について伝え、現場進行の観点からの注意喚起を行ったという認識」だといい、「『若い女性である』という理由での専門性の否定や、執拗な叱責」といった劇団側の受け止めとは認識に相違があるとした。
資料については、A氏は「当初、利用者の方へ通常お渡ししている範囲の資料をお渡ししていたものの、その他の資料につきましては、主催者様から特段のご要望はなかったことから、渡していなかった」と説明しているとした。
市は、こうした認識の相違から、「本件がいわゆるハラスメントに該当することの確認には至っておりません」という。そのため、
「市として事実関係の確認ができていない状況の中で、市側の判断によって一方的に委託事業者との契約を解除することはできず、また、公演まで3週間を切った時点で新規の事業者を舞台業務につかせることについては、設備や運営の安全性の確保の観点からも現実的ではありませんでした」
と、事業者の変更を要求する劇団側の求めに応じなかった理由について説明した。一方で、「この度の舞台担当者とのやり取りの中で、結果としてご対応された方に不快な思いをさせてしまいましたことにつきましては、謝罪をさせていただいております」とした。
また、市の対応としては、
「公演の実施に向けて、当市として可能な限り協力する観点から、主催者様のご要望を踏まえ、契約事業者の協力会社から代理の担当者を配置する形で対応を行いました」
と対応について説明した。なお、「リハーサル2日前に、さらに音響の専門技術者1名を追加配置するようご要望をいただきましたが、日程や体制の調整が困難であったことから、この点については対応に至りませんでした」ともした。
DMX回線の利用禁止の理由は
では、DMX回線の利用禁止や、「音響のメイン卓を、専門知識のない事務職である所長が立ち会い、照明担当者に操作させる」といった対応についてはどうか。
市コミュニティ課は、当初公演が予定されていた府中市中央文化センター併設の「ひばりホール」について、「小規模な児童ホールであり、主に講演会や発表会などの利用を想定した施設として運営しております」と説明。
また、DMX回線について、
「利用実績が数年間なかったことから、当該回線を利用することで接続機器の故障や円滑な公演の運営に支障をきたすおそれもありました。そのため、DMX回線については、施設の利用案内等にも提供可能な設備として記載しておりません」
とした。
こうした中、劇団側がDMX回線の利用を希望していることを把握したのが、「リハーサル予定日の3日前」だったと主張。「事前の動作確認・安全確認の対応も時間的に困難であったため、当該回線の提供をお断りさせていただきました」とした。
音響については、「施設の通常の運用では、音響メイン卓については、当市委託事業者が音声出力の入り切りのみを行い、音響の詳細な操作は利用団体様がサブミキサー卓を用いて行う運用としています」と説明。
一方で、A氏側は打ち合わせ時の内容から、「音響設備一式は持ち込みで、施設の音響設備は使用しない」と認識していたと説明。そのため、「代理の担当者につきましては、主に照明を担当することを前提として配置がなされました」とした。
結果として、「施設の音響設備は使用しないとの打合せにおける認識についても、主催者様側の認識と相違が生じています」という。
また、劇団側からは、「公演当日における第三者(市職員等)の立ち会い」の要望もあったとする。
市は、「こうした経緯やご要望を踏まえ、サブミキサー卓を主催者様が使用されることを前提とした対応として、施設の責任者である所長が立ち会いのもと、代理の担当者が音響メイン卓のスイッチの入り切りの操作のみを行う体制を提案した」と説明した。
市は今後の調査について、「現時点では、新たな調査対象等が見受けられない状況であるため、直ちに追加の調査を行う予定はありませんが、今後も状況を注視しつつ対応してまいりたいと考えております」としている。