映画「ブラック会社・・・」インタビュー4 
佐藤祐市監督「最初に入った会社は月給1万円未満だった」

印刷

   テレビドラマの演出家として活躍後、2007年に公開された3作目の映画『キサラギ』で「ブルーリボン賞」や「日本アカデミー賞」を受賞し、一躍売れっ子となった佐藤祐市監督。そこに至る道のりで学んだ「仕事観」が、最新作『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』にも反映されているようだ。(聞き手:野崎大輔)

一番こだわったのは「ブラック度合いは足りているのか?」

「月給1万円未満」から「注目を浴びる映画監督」になった佐藤祐市氏
「月給1万円未満」から「注目を浴びる映画監督」になった佐藤祐市氏

――最初、原作を読んでどう感じましたか?

佐藤 濃いキャラクターがいっぱいいて、面白く読めて、しかも意外とウルウルするところもあって。すごくエンターテイメントしてるなと思いました。映画にするのは楽しみだなと。だからすぐに脚本にできると思っていたんですが、実際はすごく時間がかかって、クランクイン直前までいじっていました。

――原作のエッセンスが凝縮されているなと思いました

佐藤 「原作からどの部分をチョイスするか」「マ男の過去をどういう順番とタイミングで挟み込むのか」、そして「終わり方をどうするのか」「それらが映像でうまく伝わるのか」。そういうことを詰めるのに時間がかかりました。
   それから、何と言っても「会社のブラック度合いは、これで足りているのか?」ということですね。いろんな人のアイデアを集めて「こうした方が伝わりやすいんじゃないか?」という話し合いを何度もしました。原作になかった、マイコさんが松葉杖を突いて出てくるところとかは、僕の昔の部下のエピソードを使いました(笑)。

――「ブラック会社」が、かなりリアルに描かれていたと思いますよ。上司が部下の面倒を見ないとか、経費が認められないとか。就業時間がないも同然みたいなところとか

佐藤 それでもご覧になった方は、いろんな感想を持つと思うんです。すごく身につまされる人もいると思いますけど、僕自身はテレビ制作の仕事をやってきたので、正直「テレビ屋の方がしんどいぜ! 3日寝てないんだよ!」という気持ちもあります。
   オンエアが明日ってことになれば、昨日まで撮りためたものを夜通し編集して、ナレーション入れて、オンエアのギリギリ直前に届ける。それでも最初に入った会社は、1カ月の給料が1万円を切っていた(笑)。

「達成感」や「仲間感」が欠如していることが「ブラック」だ

「マ男」役の小池徹平さんと話をする佐藤監督
(C) 2009 ブラック会社限界対策委員会
「マ男」役の小池徹平さんと話をする佐藤監督 (C) 2009 ブラック会社限界対策委員会

――それは違法ですね。「ブラック会社」そのものですよ

佐藤 そうだったんでしょうね。でも、どんなにきつくたって、オンエアされた番組の視聴率が良かったり、見た人の評判が良かったりすれば、それだけでうれしいじゃないですか。「ああ、寝ずに作った甲斐があったなあ」と。
   そう考えると、ブラックかどうかの分かれ目は「人間関係」にあるんじゃないかと。人間関係が良好であれば、仕事を成し遂げた「達成感」や、力を合わせて頑張った「仲間感」みたいなものが味わえる。それが欠如していることこそが一番ブラックなんじゃないかというのが、僕らの中にある結論ですね。

――確かに「黒井システム」の労働条件は変わっていないのに、チームが壁を乗り越え「仲間感」を感じられるようになったところで、別の次元に移ったなと思いました

佐藤 結局、自分が辛かったり出来なかったりすることを、会社のせいとか周りのせいにばかりしていても、何も動いたことにはならないんですよ。それは一番みっともないというか、カッコ悪いことだと思うんですよね。
   周りを変え、自分自身を豊かに生きるためには、まず自分を変えなければならない。自分が一歩踏み出す勇気を見せれば、助言してくれる先輩や仲間が現れるものです。自分の意思と仲間の助けがあいまって、事態は好転するようになる。自分自身も含めて、みんなに持っていて欲しいと思うのは、その「一歩踏み出す勇気」ですね。

――自分でアクションを起こさないことには、周りも自分も変わらないと

佐藤 それは堅苦しく考えることでもなくて、「こうやってみたらどうなるのかな」という「好奇心」と言い換えてもいいかもしれない。自分から見て「ダメだなあ」と思う人に対してだって、「うまく使えばいいじゃん」と発想を変えてアプローチをすると、相手も反応を返してくる。そうやって関係性を変えていけばいいと思う。

「ひとりの人間が限界を迎えるとき、どういう選択をするのか」

「リーダーのモデル?僕は現場の空気を悪くするような怒り方はしません」
「リーダーのモデル?僕は現場の空気を悪くするような怒り方はしません」

――「うまく使う」というのは、監督業の視点でもありますね

佐藤 そうですね。僕が演技するわけでもないし、カメラを撮るわけでも照明当てるわけでもない。美術を探してくるわけでもない。口で言うだけじゃないですか、監督って。何かやってくれたことに対して「これ違う、そうじゃない」と(笑)。
   そんなこと言われたって嫌ですよね、相手は。そこを「あなたが考えている面白いと思うものは、僕にとってはこうなんだよ」と話してみると、相手が面白がって、そこに別の発想を上塗りしてくれる。そうやって関係性を変えていくんです。
   そうすれば、その人も納得するし、別のスタッフ間の関係もよくなって、意思の疎通もよくなってくる。僕も聖人君子じゃないから、正直言って嫌いなやつはいるし、いつでも出来ているわけではないんだけど。

――ところで、リーダー(品川祐)の「バーカ!」にモデルがいるという話が・・・

佐藤 あれは僕だ、という説があるんですが(笑)。実際「バーカ!」とか言うんですよ。でも、場を笑わかすような、おどけた言い方ですよ。僕は、現場の空気を悪くするようなことは嫌いです。大きい声を出すこともありますけど、決して現場の空気を悪くするような怒り方はしません。
   それに、冷静じゃなくなると、撮っていても何が正しいか正しくないか判断できなくなってしまうんですよ。ですから、もしも現場で思っていたような準備がされていなかったときでも、「そうじゃねえだろ!」と思いながら、「よし、じゃあ今回はこう撮ろうか」とか「ここは明日撮ろう」と判断するようにしていますね。

――最後に、この映画はどういう人に見てもらいたいですか

佐藤 これから就職する人だったり、働きながら行き詰っている人に、「何のために働くんだろう」と考えるきっかけにしてもらえたらと思いますね。ひとりの人間が限界を迎えるとき、どういう選択をするのかというところを、ぜひ見てもらいたいです。

>>インタビュー1:マイコ「藤田さんも素敵だけど、マ男くんもいいかも」

>>インタビュー2:田中圭「できればカッコいい人と一緒に仕事したい」

>>インタビュー3:新田龍「黒井システムを『ブラック』とバカにするなかれ」


佐藤祐市 テレビドラマの演出家として数多くのヒットドラマを演出。3作目の映画『キサラギ』(07)で、07年度ブルーリボン賞作品賞、08年度日本アカデミー賞優秀作品賞、優秀監督賞など4部門と話題賞(作品部門)を受賞。09年には『守護天使』を監督。いま、もっとも注目を浴びる監督のひとり。


野崎大輔 特定社会保険労務士、人事コンサルタント。フリーター、会計事務所、上場企業の人事部勤務などを経て、野崎人事労務管理事務所を設立。J-CAST会社ウォッチで「できるヤツと思わせる20のコツ」を連載中。

  • コメント・口コミ
  • Facebook
  • twitter
コメント・口コミを投稿する
コメント・口コミを入力
ハンドルネーム
コメント・口コミ
   

※誹謗中傷や差別的発言、不愉快にさせるようなコメント・口コミは掲載しない場合があります。
コメント・口コミの掲載基準については、コメント・口コミに関する諸注意をご一読ください。

注目情報PR
追悼

お知らせ

電子書籍 フジ三太郎とサトウサンペイ 好評発売中