2024年 4月 26日 (金)

「働き方」に不安抱える大学の研究者...契約状況は「無期」と「有期」、どちらが多いのか?(鷲尾香一)

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   大学の研究状況を探る連載も最終回となった。今回は文部科学省の「研究者・教員等の雇用状況等に関する調査」から大学研究者の雇用状況を取り上げ、日本の大学の研究者はどのような雇用状態にあるのかをみてみよう。

無期労働契約38万2905人 有期労働契約36万4588人、うち特例対象11万9062人

   文部科学省は2023年3月31日、「研究者・教員等の雇用状況等に関する調査」(令和4年度)の調査結果を公表した。この調査には、条件がある。

   (1)研究者等であって研究開発法人または大学等を設置する者との間で期間の定めのある労働契約を締結している

   (2)研究開発等に係る企画立案、資金の確保並びに知的財産権の取得及び活用その他の研究開発等に係る運営および管理に係る業務(専門的な知識および能力を必要とするものに限る)に従事する者であって研究開発法人または大学等を設置する者との間で有期労働契約を締結している

   (3)大学の教員等の任期に関する法律(任期法)に基づく任期の定めがある労働契約を締結した教員等

   以上3項目のうち、いずれかの条件を満たし、「無期転換申込権」の発生までの期間を10年とする特例が適用されている研究者・教員等を対象としている。調査では、国立大学、公立大学、私立大学、大学共同利用機関法人、研究開発法人のうち820機関から回答を得た。

   説明を加えておくと、「無期転換申込権」とは、同一の使用者との間で有期労働契約が5年を超えて更新された場合、労働者からの申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できる権利のこと。

   ただし、高度な専門的知識等を有する有期雇用労働者については有期労働契約を10年まで延長する特例が認められており、研究者などはこれに該当する。

   前置きが長くなったが、今回の調査結果によると、回答機関全体の労働者74万7493人のうち、無期労働契約者は38万2905人(51.2%)、有期労働契約者は36万4588人(48.8%)、このうち特例対象者は11万9062人(15.9%)だった。

   そして、特例対象者となっている研究者は1万4787人となっている。つまり、特例対象者となっている研究者は、有期労働契約であり、非正規雇用者に近い労働者ということだ。

   その所属機関別の内訳では、国立大学が8061人と最も多く、次いで研究開発法人の4381人となっている。(グラフ1)

   そのうえ、この特例対象者のうち、雇用契約上の契約更新回数や通算勤続年数の上限が10年以下と、制限が設けられている研究者は9805人にも上った。すなわち、これらの研究者は、事実上10年を上限に雇用契約が終了することを意味する。

   所属機関別の内訳では、国立大学が6046人、研究開発法人が1938人、私立大学が1214人などとなっている。(グラフ2)

雇用状況の背景には、補助金や交付金削減など大学経営の厳しさも

   また、特例対象者の研究者のうち、2022年度末で通算契約期間10年を迎える者は969人。所属機関別の内訳では、国立大学が491人、公立大学が65人、私立大学が54人、大学共同利用機関法人が7人、研究開発法人が352人となっている。

   残念ながらこの調査は研究者に限ったものではないため、通算契約期間10年を迎える969人研究者の雇用契約が、その後どのようになったのかは判然としない。

   だが、大学教員や技術者等を含めた通算契約期間10年を迎える者1万4029人の今後の雇用契約見通しでは、以下のようになっている。

   特例による無期転換申込権発生前だが、2022年度中に無期労働契約を締結、もしくは予定が117人(全体の0.8%)、2023年度以降無期労働契約を締結する予定462人(同3.3%)と、無期限労働契約に切り替わるのは全体のわずか4.1%にとどまっているのだ。

   さらに、2023年度以降も有期労働契約を継続する、もしくは継続の可能性がある6337人(45.2%)を合わせても、全体の49.3%と雇用が継続する可能性があるのは半数を下回る状況となっている。

   こうした研究者等の雇用の厳しさは、少子化による大学への入学生の減少も含め、国からの補助金や交付金の削減など大学経営の厳しさが背景にある。

   大学の研究状況を探る今回の連載において、3回までに取り上げた民間企業との共同研究の件数や研究資金の受入額、共同研究1件当たりや研究者1人当たりの研究費受入額で、決して潤沢な研究資金が大学の研究に投じられているわけではないことが明らかだ。

   また、特許権件数や特許権収入などの状況により、十分な収入が得られているといえる状況ではないこともわかった。

   そして、今回の調査結果で、研究資金だけではなく、研究者そのものも雇用の不安を抱えていることも明らかになった。

   大学における研究が弱体化すれば、日本の基礎そのものの弱体化につながる。民間企業との共同研究などの活性化を含め、今後、一段の大学の研究機能の向上を図っていく必要がある。

◆鷲尾香一とさぐる混沌日本の歩き方~「日本の大学」シリーズ
【1】民間企業からの研究資金、どの大学が多く受けているか? トップの大学は167億円(鷲尾香一)
【2】民間企業から大学への研究資金...共同研究1件当たり&研究者1人当たり換算では「東大」が1位ではなかった(鷲尾香一)
【3】大学での研究成果はどれくらい「収入」に結びつくのか? 特許件数、特許権収入、知的財産権収入が多い大学ランキング(鷲尾香一)
【4】「働き方」に不安抱える大学の研究者...契約状況は「無期」と「有期」、どちらが多いのか?(鷲尾香一)

鷲尾香一(わしお・きょういち)
鷲尾香一(わしお・こういち)
経済ジャーナリスト
元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで、さまざまな分野で取材。執筆活動を行っている。
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