全世界約3000人の投資家にアピールできるビジネスコンテストを開催
――2017年に創設された「スタートアップワールドカップ」は、グローバルにスタートアップを支援するプラットフォームです。創設の目的を教えてください。
アニス・ウッザマン 創設した目的は、全世界のいろいろな技術をみたいからです。コロナ禍の中止を挟んで今年で7回目になりますが、ついに世界でいちばん大きいスタートアップビジネスコンテストになりました。優勝投資賞金は約1億5000万円。世界100以上の国と地域から3万社が参加します。
ここで披露されるすべての技術を私たちの顧客もみられるようになっています。そして、これをベースにして私たちは、世界のスタートアップと大企業、投資家を、国境を越えてつなげることができるのです。ここで起きるイノベーションへの期待は計りしれません。
日本にはいろいろな優れたスタートアップがありますが、なかなかアピールする機会がありませんでした。特に地方ではその問題は深刻です。そこでコンテストの予選を、東北、東京、九州で実施しています。
今年(25年)5月に熊本県で開催された九州予選では、トイメディカルという熊本の会社が優勝しました。味を変えずに体内への塩分吸収を抑制する技術を開発しています。アメリカ・サンフランシスコで10月に行われる決勝戦で彼らが、世界中から集まった約3000人の投資家や大企業の経営層に向けて発表するのが楽しみです。この時、トイメディカルの技術に興味をもったどこかの国の投資家や企業が声をかけて、一緒に連携しようという話になれば、彼らが進む道は大きく変わっていくでしょう。
過去6回の優勝者はアメリカ、日本が2社ずつ。あとはカナダとベトナムが1社ずつ。審査員は世界でトップクラスのベンチャーキャピタリストで、ユニコーンに何十社も投資してきた人たちばかりです。
その中で日本は2回の優勝。日本のスタートアップの皆さんは自信をもって参加してほしいです。ただ、日本人が惜しいなと感じるのは英語力。プレゼンに関するQ&Aのときにスムーズに説明できないために優勝を逃したり、3位に甘んじたりする人も。英語のブラッシュアップにも取り組んでほしいです。
――これから世界で注目されるのはどんな分野でしょうか?
アニス・ウッザマン 生成AIがNo.1ですね。昨年、アメリカの総投資額の6~7割は生成AIです。続いて、環境系のクライメートテック。ところが環境問題に消極的なトランプ氏が大統領に就任した影響で少し低迷する可能性も。その代わりにのし上がってくるのが、スペーステック(宇宙技術)です。
なかでもSpaceXから目が離せません。私は「宇宙の宅配便」にたとえますが、SpaceXは全世界の衛星輸送の7割を担う、いわば「世界で一番大きな運送会社」なのです。マスク氏は衛星を使って世界のインターネット接続事業に大きな影響を及ぼすのは間違いありません。また、近い将来にはロケットで北米からアジアの主要都市間を30分程度で移動することが可能になると言われています。
日本にも、月面輸送サービスや、宇宙ゴミの除去や衛星への燃料補給などのサービス開発をする注目の企業が育っています。あとはディープテックやヘルスケア、サイバーセキュリティの分野も伸びると思います。
――最後に、投資するときに最も重視する要素は何でしょう?
アニス・ウッザマン まずスタートアップの創業者やそのチームがどんな人たちでつくられているか、それからアドバイザーやボードメンバーに注目しています。次にマーケットサイズ、そしてタイミング、時代にフィットしているかということ。また、商品とテクノロジーに新しさがあるかどうかです。
たとえばAIをからめたプロダクトをつくる場合、得意分野から発想するのがいいでしょう。日本は自動車やバイオ、アニメーションが強いので、それにAIを組み合わせるとか。ビジョンやエグジットのポテンシャルもポイントです。我こそはと思う方、ぜひスタートアップワールカップに挑戦してください。