日曜コラム:「一番の悩みはお金」カンヌ受賞の河瀬監督

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   「殯(もがり)の森」で第60回カンヌ国際映画祭に於いてパルムドールに次ぐグランプリを受賞した河瀬直美監督の記者会見が6月11日、日本外国特派員協会で開かれた。和歌山県から新幹線で昼前に着いたという監督を囲んで、80名を越す記者が詰めかけ熱気の籠もった質問と答えが取り交わされた。

外国特派員協会で「凱旋会見」をする河瀬直美監督
外国特派員協会で「凱旋会見」をする河瀬直美監督
Photo by Sawara Chikamatsu

   60回と言う節目の映画祭でこんな立派な賞を貰い、そのことで自分の考えを世界に発信できることが嬉しいと手放しで喜ぶ。認知症の老人と子供を亡くしたばかりの若い介護の女性が、どのように関係し心を通わせ、この社会を生きて行くか。観客は最初に老人を見て汚いと思うが最後には彼の気持ちを理解するようになり、彼の立場で物を考える。心の拠りどころを失いそうになったとき、亡くなった人の面影に寄せて力とすれば人に優しくなれる、とその哲学を語る表情は、38歳の女性とは思えないほど敢然としている。賞を貰ったことで、今日本が大切にしなければならない部分を評価して頂き世界に発信できる、と何回も繰り返す。

   この記者会見の前に「垂乳女(たらちめ)」というドキュメンタリーが上映された。主人公は、河瀬監督を育ててくれた90歳を越すおばあちゃん。河瀬直美の祖父の姉にあたり、両親に捨てられた河瀬は2歳から育ててもらった。もう認知症の症状が現れているおばあちゃんに厳しく迫る河瀬、謝るおばあちゃん。河瀬によると苛めているのでは無く、おばあちゃんとの「繋がり」を強調しているのだと。おばあちゃんは身体が弱って行き、救急車で運ばれたりして死ぬ。

   一方河瀬は妊娠し、光祈君が誕生する。「生」と「死」と言う河瀬の永遠のテーマを象徴する。河瀬は自分の出産場面を撮影する。彼女の下半身から頭が出、身体が出、臍の緒をつけた赤ん坊の出る場面が余さず紹介される。衝撃的なヴィジュアルだ。河瀬は胎盤を映画の始めと終わりにクローズアップで見せ、人は一人でも孤独でも無く、誰でも母の胎盤から生まれて来たものだ。そこに帰れば一人では無いと主張したかったと。

   河瀬の一番の悩みはお金だそうだ。とっても貧乏で、4年くらい待たないと1本作れない。すると生きている間に何本作れるか心細い。TV番組の焼き直しだとかコミックの原作だとかが映画化されて日本映画が復活と騒がれているが、自分はそんな映画は作れない。いわば純文学の作家のようなもので、自分の作品のみを世に送り出すだけだ。甘利経産相に受賞の報告に伺った時、カナダやフランスのように国が援助して映画作りをし、日本の考えを世界に送り出す必要があると強調しておいた。自作のタイトルも自分の考えた古い文字。

   「萌の朱雀」「沙羅双樹」「垂乳女」「殯の森」など自分の付けた漢字の題名が世界に認められるのが嬉しい、と。

   1時間半に及ぶ会見で、自分の哲学、映画作りは間違っていないと確信して淡々と喋る女性監督・河瀬直美は、これからも世界に向かって純文学の自分独自の映像を送り続けるだろう。

恵介
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