2020年 11月 29日 (日)

松山ケンイチ、菊地凛子だから成功した「村上春樹」映画化

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(C)2010「ノルウェイの森」村上春樹/アスミック・エース、フジテレビジョン
(C)2010「ノルウェイの森」村上春樹/アスミック・エース、フジテレビジョン 【PG12指定】

<ノルウェイの森>国内発行部数が1000万部を越え、世界中に読者を獲得している村上春樹の『ノルウェイの森』の実写化。脚本・監督は『シクロ』でヴェネツィア国際映画祭グランプリを受賞したトラン・アン・ユン。撮影監督をホウ・シャオシェン作品や『空気人形』などでお馴染の名カメラマン、リー・ピンビンが担当している。

   親友のキズキ(高良健吾)を自殺で喪ったワタナベは、東京で大学生活を送っていた。ある日、キズキの恋人であった直子(菊地凛子)と偶然再会する。互いに心に空虚感がある2人は親密な関係になっていく。だが、直子の精神は不安定になっていき、ワタナベは直子と連絡を取れなくなっていく。そんな時、ワタナベの前に奔放で可憐な緑が現れた。

混沌とした不思議な世界にたどり着く「男と女・愛と死」

   監督はベトナム系フランス人、撮影監督は台湾人であることから、ワタナベが生活をする学生寮も部屋や廊下などが混沌としていて、1970年代の日本というより「アジア」を感じさせる異世界のようだ。また、生きるということに悩み苦しむ登場人物とは裏腹に、木々、雨、風などの自然が鮮やかに生の躍動を見せているのも印象的だ。「アジア人の村上春樹の読み方」が映像に入り込んだような世界は、驚くほどに心地良く、見る者をスクリーンに釘付けにする。

   原作の読者は多いだろうが、映画のストーリーははっきり言って原作に忠実とは言い難い。早い段階でストーリーが崩壊していることに、原作を知っている者は気付くに違いない。

   監督は原作の中の「男と女・愛と死」というテーマだけに絞って、他の要素は大胆に削っているため、原作ファンは「どうしてあのシーンがないの!?」と戸惑うかもしれない。だが、2時間ちょっとの映画で原作を忠実になぞるのは限界がある。そんな映画に取り込まなかった原作のディテールを表現するのが、役者の仕事ではないのだろうかとも思う。

   ワタナベというつかみ所のない役を演じた松山ケンイチは、独特の間、佇まい、呼吸方法を駆使して、観客との距離感を保つことに成功している。彼以外に誰がこの役を演じられるだろうかとも思わせる。直子を演じた菊地凛子は、説明を排した作品の中で、「愛と死」というテーマを体現するストーリーテラーの役割を体当たりで演じ、難易度の高い役柄を自分のものにした。彼女の役が二流の役者であればこの作品も二流であっただろう。

   緑を演じた水原希子は台詞うんぬんではなく、存在そのものが若さとエロスに溢れ、この作品のテーマを象徴している。彼女をキャスティングした監督も見事だが、映画初出演とは思えない堂々とした雰囲気と、直子との「違い」を見事に表現して作品の質を高めたことに拍手を送りたい。

   不可能といわれた村上春樹の小説の実写化という冒険は、誰もが予想しないような混沌とした不思議な世界にたどり着いている。小説から映像への昇華は身震いするほどの凄みがある。断言する、これが映画だ。

川端龍介

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