<アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち>
前代未聞のテレビ中継「ユダヤ人虐殺指揮官アイヒマン裁判」世界中に伝えられたホロコーストの真実

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(C)Feelgood Films 2014 Ltd
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   ナチスによるホロコースト(ユダヤ人抹殺)の指揮を任されていた男、アドルフ・アイヒマンの裁判では、275時間という長時間の予備尋問が行われた。この「世紀の裁判」をテレビで世界中に中継しようと考えたテレビプロデューサーのミルトン・フルックマン(マーティン・フリーマン)は、米国人ドキュメンタリー監督のレオ・フルビッツ(アンソニー・ラパーリア)を起用する。

   アイヒマンは1960年に逃亡先のアルゼンチンで発見され、イスラエル・エルサレムで裁判が始まった。ミルトンは法廷の壁にカメラを隠すことで中継の許可を得た。数百万人をガス室に送り込んだ責任者・アイヒマンは狂気の殺人者なのか、ヒトラーから命令されただけの軍人なのか。この男は厳しい追及にも眉ひとつ動かさず、質問を巧みにはぐらかして無罪を主張した。

   ミルトンは中継映像に「動き」が乏しいと気をもみ、なんとか世紀の裁判を世紀のショーへと演出できないか模索する。レオはアイヒマンの不安げな手の動き、裁判官たちの表情など細部を写すことで法廷の雰囲気を伝えようとする。

   しかし、思わぬ形で視聴者はテレビに釘付けとなった。アウシュビッツからの生還者が体験を語りだしたのだ。さらに、骨が剥き出しになった人間や死体の山の映像も公開された。第2次世界大戦が終焉から15年後、世界はホロコーストの真相を初めて目の当たりにした。

狂気に支配されたドイツ「あの当時は、命令されれば父親であっても殺したでしょう」

   視聴率を気にしすぎてミルトンが失っていた理性。アイヒマンらナチス時代のドイツが失っていた理性。対して、強制収容所の記憶を忘れたいはずなのに証言する元収容者たちの勇気と理性。理性の喪失は理性でしか蘇生できない。

   アイヒマンは逮捕後、「あの当時は『お前の父親は裏切り者だ』と言われれば、実の父親であっても殺したでしょう。私は当時、命令に忠実に従い、それを忠実に実行することに、何というべきか、精神的な満足感を見出していたのです。命令された内容はなんであれ、 です」と語っている。

   ヒトラーのドイツのように、国中が狂気に巻き込まれると、考えられないような非人間的な命令でも実行する満足感に酔ってしまうということだ。これは現代でも同じだろう。 96分という短い上映時間ながら、「The Eichmann Show」(原題)というタイトルの奥深さにしびれる。アイヒマンはこの裁判で死刑判決を受け、翌年に絞首刑となった。

丸輪 太郎

おススメ度☆☆☆☆

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