ある日突然犯人扱いされる「ネットリンチ」が急増

印刷

   ツイッターやブログである日突然殺人犯扱いされる「ネットリンチ」が急増している。罵詈雑言のメールや電話が殺到し、仕事に支障が出、身の危険を混じることもある。容疑者と名前が似る、住所が近いなどのささいというよりは根拠にならない理由からだ。調べると、誤解や偏見を引き起こす要因が野放しになっていた。

   根拠ない非難の嵐が集中するネット炎上の記録を分析すると、政治家や芸能人といった有名人でもない一般の人がターゲットにされていた。福岡県の石橋秀文さんに10月(2017年)に持ち上がった事態もそうだった。

   前日に東名高速で起きたあおり運転からの夫婦死亡事故。その容疑者と名字がいっしょで、福岡県で建設業を経営することから「父親だ」というデマがツイッターやネット掲示板に流れ、広がった。夜中の2時や3時に電話が100件以上殺到。「身内ではない」と言っても、「嘘だ」「とぼけるな」「極道をなめんな」と話にならない。石橋さんは会社を一時休業させられた。

   タレントのスマイリーキクチさんは女子高生殺しの容疑者グループと同じ東京足立区出身というのがきっかけで「女子高生をコンクリート詰めにした」と書き込まれ、仕事が激減、殺害予告を受けた。「18年たってもある」という。

   自身もネットリンチの被害にあった唐澤貴洋弁護士は「まったく関係ない人が標的にされる危険性」を指摘する。スマイリーさんは「気にくわないというだけで無関係でもネットにさらされる。いつ被害にあうかわからない」と恐怖を語る。

   実際に個人の情報がネット上では簡単に特定される。自身のサイトを「カギつき」とよばれる非公開にしていても、その友人サイトが公開されていれば、やり取りから名前や住所につながるヒントが漏れる。「誕生日おめでとう」とあれば、それで推測できる。居住地や出身校などもそうだ。

   凶悪事件の容疑者が逮捕された翌日には住所や電話番号、ときには所属会社の地図までが表示されるというから、行き過ぎよりも悪質だ。

   経験者は「電車に乗っているときに暇つぶしに調べた」「パズルを解くみたいだった」という。唐澤さんにネットリンチを仕掛けた男は「殺害予告で盛り上がった。一体感というか、社会で得られなかったものがネットリンチで得られる」「悪いことだとは思っていなかった。異常だった」と話した。ちょっとしたイタズラの感覚で、罪悪感はない。

   国際大の山口真一講師は、加害者の「ゆがんだ正義感」を指摘する。「一部のものすごく正義感を振りかざす人がやってしまう」と分析する。便乗する、楽しむ、許せないといった正義感型で、「自分たちの軸で裁いているのがネットの現状」というのだ。

まとめサイトが情報を拡散

   こうしたネットリンチには「まとめサイト」の問題がある。ニュースや話題からテーマを決めて、記事やネット上のつぶやきを集め、広告収入を得て商売にする。福岡県のケースでは、問題になるとすぐサイトは閉鎖された。取材したNHK蔵重龍記者は「個人か少人数で不確かな情報を広げている」という。

   べつの「まとめサイト」の、都内のオフィス。スタッフ10人前後がゲームやニュースから1日30から40本の記事をまとめて掲載し、管理者の収入は月700万円近いという。「毎日、記事やつぶやきを探して貼り付け、ツイッターなどの反応をまた貼り付け、コメントを書き込めば完成」だそうだ。

   事実確認は「ヤフーサイトや日経などを見て問題ないと判断する。うそニュースにだまされないようにし、間違ったら訂正しています」というが、ニュースを取材した経験も知識もない。ヤフーや日経なら正しいだろうと安易に考える点がすでにド素人。情報発信者としての責任感や良心も怪しい。

   蔵重記者は「そもそも無断で記事を転載することは法的に問題があるとされています」と話すが、NHK特有の穏便すぎる言い方だ。二次情報のまじめな批判でもない引き写しは著作権にも取材倫理にも反する行為だ。サイト関係者にはその認識さえなさそうだから、ひどい状態というほかない。

   スマイリーさんは「ネットリンチは正義感でも、言論の自由でもない。言葉は人を殺すと痛感します」と話す。唐澤弁護士は「発信者の特定は可能だが、普通の人がやるのは技術的に難しいケースがある。プロバイダーに記録を保存、開示をさせる法律を作るべきだ」と語る。

   実際に提訴までいくのは、現状ではまだ大変だ。匿名でやれば罪に問われないとケチな考えでやるリンチ行為がほとんどだろうから、やりにくくし、犯罪として立件や損害賠償請求をしやすくする必要がある。

   「ネットリンチは違法だと、まず人々が強く思ってください」(唐澤弁護士)、「一人ひとりが加害者にも被害者にもなりえる」(スマイリーさん)

   武田真一キャスターは「ネットに飛び交う言葉とどう向き合うか」と、毎度繰り返しのセリフでまとめたが、立ち尽くしている場合ではない。ネットリンチやまとめサイトの現状に、まずはきちんと具体的な禁止や処罰の法整備に取り組むことだ。やるべき対応ははっきりしている。観念的な言葉で問題をあいまいにすると、野放し状態が続いてしまう。

クローズアップ現代+(2017年11月13日放送「突然あなたも被害者に!?"ネットリンチ"の恐怖」)

  • コメント・口コミ
  • Facebook
  • twitter
コメント・口コミを投稿する
コメント・口コミを入力
ハンドルネーム
コメント・口コミ
   

※誹謗中傷や差別的発言、不愉快にさせるようなコメント・口コミは掲載しない場合があります。
コメント・口コミの掲載基準については、コメント・口コミに関する諸注意をご一読ください。

注目情報PR
追悼

お知らせ

電子書籍 フジ三太郎とサトウサンペイ 好評発売中