2024年 4月 23日 (火)

<見えない壁~福島・被災者と避難者~> (福島中央テレビ)
同じ福島の人々なのに「原発避難者」と「津波被災者」が対立 地元局だから追跡できた良質なドキュメンタリー

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「札ビラ切っている」「税金払わない」と非難の応酬

   転機となったのは、ある交流会準備での出来事だった。「被災者はいわき市に籍を移していないから税金を払っていない」「それなのに医療費はタダ」「補償金で羽振りがいいくせに」。被災者側の新役員が、機関銃のように言葉を浴びせる。最初は笑顔だった避難者側も表情がこわばる。「市民税は元の自治体に払っている。元の自治体からいわき市に、交付税という形でお金が入っているので、税金を納めていないのに使い放題というのは違う」「札ビラを切っているなんてとんでもない」「細かな説明を聞いてもらえれば誤解は解けるが、ケンカ腰でなじられては、話す気にもなれない」

   飛び交う応酬に割って入ったのは、藁谷さんだった。「そういう誤解を被災者側は、最初に植え付けられてしまったところもある」。その日の話し合いの最後、口火を切って避難者を攻撃した女性が言った。「そういうことだったとは初めて知った。交流しないとわからないことばかりだ」。藁谷さんもまた、ひとり呟く。「もうわだかまりはない。ないということを信じないと、話し合いなんかできない」。一年前の言葉を自ら振り払い、交流会の準備にまい進する。

   外から見ると一緒くたにされがちな、福島県の地震「被災者」と原発「避難者」。その壁に視点を当て、数年単位で経過を追い続ける。一気に溝がゼロになるような漫画的なハッピーエンドはありえない。それでも前進する人々に焦点を当てる。その前進の原動力となる人の姿を追う。止まった車を押すとき、最初にタイヤが回るまでに一番負荷がかかる。それと同じように、何をしても好転しない、しかし将来の礎として活動を止めてはならないときに踏ん張る様を記録する。福島の放送局ならではの良質なドキュメンタリだった。

   さらに人々を細かくみると、「被災者」の中にも、全壊認定された人、されなかった人。高台移転に賛成した人、しなかった人など、さらなる分断がある。「避難者」の中にも、「40キロ圏内から福島県内に避難した人」「40キロ圏外なのに福島県外に避難した人」「一度は避難したが除染が完了したので戻った人」「除染は完了したが戻らなかった人」など、違いを上げればきりがない。置かれた立場が違うと、言い分も違う。自分が心理的・金銭的に追い詰められていれば、隣の芝が青く見える。補償の違い、政策の違い、地域住民のカラー。分断の原因は様々だ。

   だからこそ、黙殺だけはしてはならない。今どこで、どんな分断が生じているのか。すべてをつかむことも、解決することもできないからこそ、報道機関の監視機能の価値は今後も問われ続ける。(放送2018年2月11日24時55分~)

バンブー

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