2024年 4月 23日 (火)

国連委員会の慰安婦「見解」を日本が「拒否」? 「伝言ゲーム」で政府見解「一人歩き」

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   いわゆる従軍慰安婦問題をめぐり、政府の公式見解とは全く異なるコメントが、ネット上を一人歩きしている。国連の委員会が日本政府に対して、従軍慰安婦問題について国家としての責任を認めた上で公的に謝罪するように求めた見解に対して、日本政府は「拒否」したというのだ。

   AFP通信が「外務省当局者」の話を根拠に報じた内容が中国メディアに引用されて拡散した模様だ。日本のネット利用者は、日本政府が「拒否」したことを歓迎しているようだが、菅義偉官房長官は「非常に残念」とは述べたものの「拒否する」とは言っていない。

「見解」は国連の公式文書だが拘束力はない

菅義偉官房長官は7月25日午後の会見で、国連委員会の見解について「非常に残念」と述べた。菅氏は「私の会見が、日本政府を代表しているすべて」とも断言している
菅義偉官房長官は7月25日午後の会見で、国連委員会の見解について「非常に残念」と述べた。菅氏は「私の会見が、日本政府を代表しているすべて」とも断言している

   人権問題の専門家らでつくる国連の「規約人権委員会」は08年以来6年ぶりに日本の人権状況を審査し、2014年7月24日、その結果をまとめた「最終見解」を発表した。見解では、人種差別を助長するようなヘイトスピーチ(憎悪表現)を禁止した上で犯罪者を処罰するように求めたほか、いわゆる従軍慰安婦問題については、日本政府が公的に謝罪し、国家としての責任を正式に認めるように求めている。

   「見解」に拘束力はないが、国連の公式文書ではあるため、日本政府に対して取り組みを加速させるように求める声が強まる可能性もある。

   「勧告」を出した規約人権委員会は、国連総会で採択された「市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)」を根拠に設置されている。同規約を日本が批准したのは1979年のことだ。

   AFP通信は7月26日(日本時間)、このことを念頭に、

「従軍慰安婦問題を含め、この規約は(批准)当時(=1979年)より以前の出来事には適用されないことになっている」

という「外務省報道課の当局者」の発言を東京発で伝えている。この発言を根拠に、記事には「日本、国連監視団の『慰安婦』に関する求めを拒否」という見出しがつけられだ。

   このAFPの記事は同日中に中国国営新華社通信の記事に引用され、コメント欄には、

「本当に勝手な理屈だ」

といった日本批判の声が相次いだ。

   この新華社の記事は、7月28日には日本語に翻訳されてさらに別のニュースサイトに掲載された。日本語の記事では、元々の「外務省当局者」の発言がAFP通信から引用されたことは書かれておらず、

「日本の外務省は、同委員会が慰安婦問題に適用しようとしている『国際人権規約』について、日本は1979年に加入したと説明。加入以前の事柄に対する適用力はなく『そのようにする義務はない』との見解を示した」

とあるのみ。まさに「伝言ゲーム」の様相だ。日本語の記事に対しては、

「事実なら素晴らしい対応」
「ビシッと言ってやったか」

といったツイートが寄せられており、総じて日本のネット利用者に歓迎されているようだ。だが、実際の日本政府の公式見解は、これらのネット利用者を失望させる可能性がある。

菅官房長官「私の会見が、日本政府を代表しているすべて」

   日本政府としては、いわゆる従軍慰安婦問題については、1965年の日韓請求権・経済協力協定で日韓両国間の請求権問題が「完全かつ最終的に解決」されたことや、従軍慰安婦問題では謝罪をしてきたことや、官民が出資した「女性のためのアジア平和国民基金」(1995~2007年)を通じて「償い事業」などと行ってきたことなどを国際社会に対して説明してきた。このことを念頭に、菅官房長官は7月25日夕方の会見で

「慰安婦問題をはじめ、我が国の基本的立場・取り組みについて、我が国として真摯に説明したにもかかわらず、最終見解に十分に生かされかったことは非常に残念だと言わざるを得ない。拘束力はないが、関係省庁と内容を十分に検討した上で適切に対応したい」

と述べている。

   菅官房長官は4月25日の会見で「私の会見が、日本政府を代表しているすべて」と断言。官房長官会見の内容が日本政府の公式見解だと強調している。つまり、現時点の日本政府の見解は、国連委員会の見解の内容に「非常に残念だと言わざるを得ない」「関係省庁と内容を十分に検討した上で適切に対応」というもので、「日本政府が『拒否』」という記事とは落差がある。結果として、日本語の記事を読んだネット利用者は「ぬか喜び」をさせられた形だ。

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