2024年 4月 29日 (月)

「面目ない」では済まない日本政府 パリ協定「批准遅れ」で実害も

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   地球温暖化対策の新たな国際枠組み「パリ協定」が2016年11月4日に発効する。環境を守るという大義名分とは裏腹に、各国の経済的利害に直結するだけに、15年12月の採択から1年足らずのスピード発効は、批准を急いだ米中、後れを取るまいと必死になった欧州連合(EU)などの事情が絡み合った結果だ。世界第5位の排出国である日本はようやく10月11日に批准案を閣議決定し、国会に提出したが、世界の流れを完全に読み誤って後手に回り、発効後の国際的なルールづくりで出遅れることになりそうだ。

   パリ協定は国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で採択され、締約国が2020年以降の温室効果ガスの自主的な削減目標を示し、世界全体で産業革命前と比べた気温の上昇を2度未満に抑えることが目標。法的拘束力があり、今世紀後半には温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指す。

  • 「パリ協定」をめぐる各国の動向とは(写真は2016年8月3日撮影)
    「パリ協定」をめぐる各国の動向とは(写真は2016年8月3日撮影)
  • 「パリ協定」をめぐる各国の動向とは(写真は2016年8月3日撮影)

米中の思惑一致

   協定の発効には批准55か国、批准国の温室効果ガス排出量が世界の55%が必要。発効は2018年ごろとの見方が国際的な常識だったが、16年10月5日時点で74か国が批准、排出量は58.82%に達し、発効要件をクリアした。

   9月3日、温室効果ガス排出量が世界1、2位の中国と米国が同時批准。米国は2017年1月に任期満了するオバマ大統領のレガシー(遺産)づくりだが、共和党のトランプ候補がパリ協定反対を明言していることから、クリントン政権で締結・ブッシュ政権で批准見送りとなった京都議定書の二の舞は避けたいという狙いがある。

   中国は、もともと協定の削減目標が「2030年ごろに排出を頭打ちに」と甘く、痛みが少ない。南シナ海などで対立する米国との、数少ない「協調カード」でもあり、中国との対立を決定的にしたくない米国とも、この部分では思惑が一致した。

   この米中の動きにEUは焦った。加盟28か国の国内手続き完了を待たずに、EUとして一括批准する異例の手に出て、欧州議会が10月4日に批准を承認、これが発効条件クリアの決め手になった。滑り込みセーフの格好だ。

   これに比べ日本政府は、9月下旬になって今臨時国会での批准承認を目指すと決断するという出遅れぶりだが、面目ないだけでなく、「実害」の懸念も指摘される。

TPP優先姿勢の影響か

   発効が早まって問題になるのが、11月7~18日にモロッコで開くCOP22の期間中に批准国が開く「第1回締約国会議(CMA1)」だ。ここで、協定に実効性を持たせる具体的なルール作りの議論が始まるが、批准効力の発生は国連に提出してから30日後のため、日本がCMA1に批准国として参加できる提出期限は10月19日。国会では環太平洋パートナーシップ協定(TPP)承認の議論が衆院で始まっているため、パリ協定批准案は参院から先に審議するが、それでもCOP22が開幕する11月7日までの承認を目指すのが精いっぱいで、CAM1に批准国として参加するのは絶望的だ。CAM1には未批准でもオブザーバーとして参加はできるが、議決権はもちろん、発言権もない。会議では削減目標の条件や目標未達の際の対処策などが議論になる見通しだが、日本の意に沿わない場合も異議は表明できない。

   安倍晋三政権の誤算はどこから来たのか。「読み誤り」は夏前からで、オバマ大統領が5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)の首脳宣言に「2016年中の発効」と盛り込ませれば、中国も9月の杭州での20か国・地域(G20)首脳会議の議題でパリ協定を重視。それでも、米中だけなら年内発効はないと政府も高をくくっていた。雲行きが怪しくなってきたのが9月末に排出量4位のインドが10月批准を表明したあたりから。そして、想定外のEU一括批准で「外交的な失敗」は決定的になった。

   読み違いの原因はTPP優先の安倍政権の方針にあるとの見方が強い。臨時国会に向け、自衛隊と米軍の物資融通を広げる改定物品役務相互提供協定(ACSA)を含めた案件の中で、政権の優先順位は、「1にも2にもTPPがまずあり、パリ協定は最後」(経済産業省筋)だった。「アベノミクスの『金融政策』への過大な依存の弊害が明らかになる中、補正予算による財政出動はあるが、経済界から求められる構造改革に、政権としてアピールできるネタはTPPぐらいしかない状況」(全国紙経済部デスク)という事情があったのだ。安倍首相が今国会の所信表明演説でパリ協定に触れなかったのは、官邸の関心の低さを示している。

   新聞各紙の紙面には、「批准遅れは恥ずかしい」(「毎日」10月7日社説)、「出遅れ危機の大失態」(「朝日」10日社説)、「官邸主導の盲点 米中の動き軽視」(「日経」10日2面解説記事)などと対応の遅れを批判する声があふれた。安倍政権支持の論調が目立つ「読売」も、社説(10月6日)は「排出削減の取り組みを着実に」と題して早期発効歓迎に力点を置いたものの、7日の2面の解説記事では「日本後手に」「ルール作り主導困難」、12日2面でも「置き去り懸念 初回会議参加できず」といった見出しを並べ、政府の対応の遅れの問題点を指摘している。

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