2020年 9月 27日 (日)

編集長からの手紙
冤罪を組み立てる捜査員の誘惑

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   人間は話を面白くする誘惑に弱い、と思いたくなる。
   2003年の鹿児島県議選に絡んだ公選法違反事件で、07年2月24日、鹿児島地裁が県議ら12人全員に無罪判決を出した。その前には、富山県の強姦事件で服役を終えた人が、容疑者が別件で捕まったことから、無実だと分かった。ひどい話だ。共通するのは捜査段階で、「有罪ストーリー」が初期の段階で組み立てられていることだ。
   かつて取材した汚職事件で、ストーリーの見事な作られ方に圧倒されたことがある。この事件は冤罪だと、今でも確信している。

建設省キャリアの「冤罪」事件

冤罪は繰り返される(「欺かれた法廷」より。イラストは加藤孝雄氏)
冤罪は繰り返される(「欺かれた法廷」より。イラストは加藤孝雄氏)

   事件は建設省キャリアの地建局長に関わるものだった。舞台が田中角栄元首相の選挙区だけに世間の注目を浴びた。昭和52年、田中元首相がロッキード事件で逮捕された翌年のことだけに、なおさらだった。
   地元の零細建設業者から90万円の賄賂を受け取った容疑である。取材したのは、最高裁の有罪判決が確定した昭和60年だった。
   最初のストーリーは地元警察の警部補が中心になって作られていた。逮捕状の容疑がそれである。捜査が進むにつれ、話は小さくなっていく様子は裁判資料で分かるが、「芸者を通じてお金を渡した」という話のハイライトは動かなかった。
   地建局長は菓子折りに入っていた封筒をそのまま送り返したと主張した。中身は10万円だったという。検察は、局長が100万円から90万円を抜いて返したと反論。ここが最後までかみ合わなかったのである。

元首相追及の雰囲気に飲まれた警察

   取材では警察官、被告人、芸者などの関係者のほぼ全員に直接会って話を聞いた。結論から言うと、渡したという証拠は、警察での調書しかない。しかも、誰も金額をはっきりいってはいない。渡した業者は私的な事情があって金額を強く否定できなかったといい、芸者は金を見ていないといった。話を総合すると、業者が妻から100万円もらい、90万円抜いて局長には10万円渡したようなのだ。
   私の取材結果は、裁判を完全に否定するものだった。背景に、当時の田中たたきの雰囲気の中で元首相の不正摘発に挑みたいという警察側の誘惑が見えた。都合の良い話だけを継ぎ合わせて、そっちの方向へ話が組み立てられていく。捜査員は法廷での証人尋問でも、明らかにウソと見られる証言を重ねている。そして、最初にこのストーリーを作った警部補は家族からも「悪徳警官」といわれる男だった。彼は警察手帳や拳銃を何日も友人に預け、捜査先の金融機関から金を借りまくり、取立てに追われて警察を退職、自殺していたのである。
   詳しく拙著「欺かれた法廷」(朝日新聞社)にほとんどを実名で書いたが、反論はこなかった。これを裁判官が読んだらどう思ったか。法廷に出なかった話しだというのだろうか。自殺した警部補を除くほとんどの捜査関係者、裁判官はその後、期待通りの出世を遂げ、裁判官の中には頂点を極めた人もいる。
   この局長は失意のうちに先年、病死している。棺の中に拙著を入れてほしいというのが遺言だった。夫人は今も、あの悪夢にうなされると話している。

発行人(株式会社ジェイ・キャスト 代表取締役)
蜷川真夫

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