2024年 4月 28日 (日)

紙の呪縛から解放されることが必要だ 電子新聞ザ・デイリー廃刊から学ぶ教訓

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   ルパート・マードックが「出版の将来」として期待を寄せた「ザ・デイリー(The Daily)」が2012年12月15日に廃刊になった。米メディア大手ニューズ・コーポレーションの会長兼CEOのマードックは、「会員が十分に獲得できず、ビジネスモデルの長期的な持続が危ぶまれた」と声明の中で語り、2011年2月に始まった「大胆な実験」(マードック)に終止符が打たれた。

   ザ・デイリーは、世界初のタブレット専用日刊紙として2011年2月に創刊され、10万人強の読者が99セント/週(あるいは39.99ドル/年)の料金を払っていた。だが、その程度の有料会員数では200人の編集部員(最後には100人に半減)を抱えたザ・デイリーを維持することはできず、年間3000万ドルの赤字を出していたという。新聞離れした若者をターゲットにしたザ・デイリーだったが、万策尽きてさすがのマードックもサジを投げた格好になった。

タブレットは万能薬ではない

   ザ・デイリーの廃刊は何を意味するのだろうか。少なくとも以下の3点が考えられる。

1 タブレット端末だけを掲載メディアとする電子版は商売として成立しない。

   ザ・デイリーはアイパッドで読まれることを前提に開発され、写真を中心にしたビジュアルな紙面作りがその心髄であった。アイパッドの画面に現れる強烈に鮮明な写真で読者の関心を引き、本文を読ませるデザインだった。日本で80年代に大ヒットした「フォーカス」などの写真週刊誌をアイパッドに置き換えたようなものとも言えるかもしれない。

   ニューズ・コープという大看板を楯にして営業をかけても有料読者は10万人強にしかならなかったことに大誤算があった。当初の目論みでは新聞離れした比較的若い世代(アイパッドに飛びついた世代でもある)を主な読者層にして、iPhoneなどのスマホでの閲覧も可能だったが、購読者の増加につながらなかった。ザ・デイリーの失敗から学ぶ教訓のひとつは、タブレットは万能薬ではなく、紙、PC(ウエブ)、スマホなどのメディアミックスのひとつでしかないということであろう。年末で印刷版を廃刊にする「ニューズウィーク」誌がタブレットでの復活を目指している(料金は2.99ドル/週あるいは24.99ドル/年)が、その行方は厳しいと言わざるをえない。

2 デジタル刊行物は紙の呪縛から解放されねばならない。

   ザ・デイリーの最大の欠陥は、その名前が示すように、「日刊紙」であることだった。インターネット時代になって、印刷や配達の都合で人工的に決められていた締め切りから解放されたわけだが、ザ・デイリーは昨日のニュースをパッケージにして毎朝配信するという新聞モデルを踏襲した。タブロイド紙「ニューヨーク・ポスト」の編集長がザ・デイリーの陣頭指揮をとったので当然の結果ではあったが。ザ・デイリーの編集局は新聞と大差なく、トップダウンの体質が強いものでもあった。

マードックの道楽であり、高い授業料であった

   ザ・デイリーが対象にしたデジタル世代はこのような新聞文化に無縁の人たちだった。だが、そのコンテンツ(レイアウトは別として)は極めて新聞的なものだったので、彼らの感性に訴えられなかったようだ。リストラで編集局が縮小されるとAPなどの通信社電が頻繁に使われ、独自性もなくなった。あまりにも紙の新聞らしい電子新聞になってしまった。ニューズウィーク誌も同様の問題に直面するだろう。今の時代において「週刊誌」に意味があるのだろうか。来年の今ごろには何からの結果が出ているに違いない。

3 三番目の焦点はビジネスモデルである。

   読者の購読料に依存する課金モデルは成功するのだろうか。成功組とされる英「エコノミスト」誌には5万人足らずの電子版有料会員がいるとされるが、同誌はもちろん紙と両立のビジネスモデルである。紙でも電子版でも単体で購読すれば29ドル/3ヶ月だが、両方同時に購読すれば36ドル/3ヶ月の割引になる。印刷版のなかったザ・デイリーには出来なかった選択である。

   電子版だけで行くならば、少人数で機動力のある編集部が、新聞の世界から見れば非常識と思われるようなユニークなニュース発信をしていくことが求められるのだろう。それはベンチャーでこそ実現可能なことで、大企業の傘下では難しいと思われる。この意味でザ・デイリーはマードックの道楽であり、高い授業料であったと言えよう。

石川 幸憲(在米ジャーナリスト)

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