2024年 4月 19日 (金)

介護、感染症対応に追い詰められる現場 その危機は「医療崩壊」にもつながりかねない

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   介護をはじめとした高齢者福祉が専門の高野龍昭・東洋大学ライフデザイン学部准教授(56)が2020年4月30日、日本記者クラブを通じてウェブ会見し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大によって、感染症対策に不慣れな現場職員にストレスがたまっていることなどを指摘した。

   高野氏は、介護施設の休業や縮小、経営難による「介護崩壊」を懸念。「介護と医療は表裏一体」とも述べ、現場への支援の必要性を訴えた。

  • 介護現場で起きていることとは(写真はイメージです)
    介護現場で起きていることとは(写真はイメージです)
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「介護職員は非常にストレスをためています」

   厚生労働省からは連日、新型コロナウイルスに関する事務連絡が介護現場に届き、「職員の感染などにより人員基準を満たさなくてもサービス提供を続けられる」など実態に即した支援もなされているという。高野氏は「こうした施策で『現場は助かっている』という意見があります」とする一方で、「効果が行き渡っていない部分もあります」と指摘。介護現場にかかる負荷と必要な支援についてこう述べる。

「介護職員は非常にストレスをためています。要因の1つは感染症対策に『不慣れ』だからです。ある職員に聞いたところ、厚労省のガイドラインはここ1か月で数百ページ分が出ており、読みこなせていないということです。だから具体的なノウハウの助言が必要です。職員のストレスに対して、メンタルサポート窓口を立ち上げた事業者団体もあります。こうした動きは非常に重要だと思います」

   新型コロナの影響で「高齢者虐待」が在宅だけでなく介護施設でも増えるかという質問が出ると、高野氏は介護職員のメンタル面への懸念とともに「可能性はある」と答えている。

「高齢者虐待に関する厚労省の報告によると、介護職員による高齢者虐待のデータもあります。原因の上位は、『介護の仕方が分からない』『介護で行き詰まった時の教育体制が不十分』『ストレスがたまる』といったものです。

今これだけ新型コロナの感染が広がっていると、感染症対策の理解が不十分で、目の前の高齢者の要望にうまく対応できないために、虐待が施設でも起きる可能性はあります。そもそも今、介護職員はストレスフルな中で働いており、新型コロナウイルスによって新しい業務が出てきました。それで余計にストレスをためこみ、虐待リスクになる可能性は当然あると思います」

「介護サービスに従事することが敬遠されてしまうのではないか」

   厚生労働省の4月27日の発表によると、最初の緊急事態宣言の対象となった7都府県で休業した介護サービス事業所の割合は、通所・短期入所タイプが1.69%、訪問タイプが0.03%だった。だが高野氏は「業務縮小している事業所が多数。通常業務を継続している事業所は少数とみられます」と指摘。多くは入所者の定員を減らす、サービス提供時間を短縮するなどしているという。

   介護施設は屋内でのケアが多く、1人の介護職員が多人数に接するなど「3密(密閉・密集・密接)」を避けられない。職員は感染症対策が不得手で、施設には医療物資の備蓄も少ない。介護施設の利用者は基礎疾患があったり高齢であったりと、重症化リスクが高い場合が多い。利用者の家族が感染リスクをおそれて施設利用を見合わせるケースもあるという。こうしたことが介護施設の休業・縮小の要因となっていると高野氏は指摘する。

   休業や縮小により、経営への影響も出始めている。職員の確保についても、

「介護分野に対して、感染の危険を伴う仕事というイメージがここのところかなり拡大しています。介護サービスに従事することが敬遠されてしまうのではないか」

と懸念した。

「医療崩壊を防ぐ一助に」

   高野氏は、新型コロナが収束せず、介護事業所への支援が現状のままで続いた場合の「最悪のシナリオ」をこう推測している。

「新型コロナウイルスは人々の距離を遠ざけます。要介護の高齢者やその家族にとっては社会的孤立を招くおそれがあります。事業所は経営困難から経営破綻にうつる可能性があります。

介護職員の離職が相次いだら、『アフターコロナ』の段階になっても人員確保できなくなるのではないかという懸念もあります。介護現場ではすでに職員数が減り始めて負担が増し、ストレスを抱えています。慣れない感染症対策で神経をすり減らしているという報告があります。この意味で、介護サービス事業所が撤退・経営破綻するなどし、高齢者が必要な介護を受けられなくなる事態が出てくるのではないか。これが介護崩壊の懸念です」

   また、「医療と介護は表裏一体です。介護の支援は医療の支援につながると私は考えます。介護の場で適切にサービスが提供されることで、高齢者を医療の場に送ることを防いでいます」とし、「介護現場と高齢者に支援がなされ、介護サービスを適切に提供することが、もしかしたら医療崩壊を防ぐ一助になるかもしれないと考えます」と話している。

(J-CASTニュース編集部 青木正典)

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