2024年 4月 26日 (金)

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朝日新聞論説委員・箱田哲也さんに聞く

   6月15日に、朝日新聞論説委員の箱田哲也さんに、ZOOMで話を聞いた。箱田さんは1994年、99年からソウル支局員、2008年から13年までソウル支局長を務めるなど、計10年にわたって韓国に駐在し、今は東アジアや日韓問題などの論説を担当している。帰国してからも、2015年の日韓国交正常化などの取材で月数回のペースで訪韓し、その年に流行したMERSへの対応を見てきた。

   それ以前は、季節性インフルエンザの防止のためにマスクをする隣国を見て、「日本人は大変ですね」と言っていた韓国の空気は、MERSの脅威で一変したという。道行く人にもマスク姿が目立ち始め、学校が開かれていても、感染を恐れて子どもを学校に通わせないという親が出てきた。

   当時の朴槿恵大統領に対しては、前年4月16日に起きた「セウォル(世越)号沈没事故」への対応に、国民の不満が渦巻いていた。仁川港から済州島に向かう大型客船が全羅南道の観梅島沖合で転覆・沈没し、299人が死亡、5人が行方不明、捜索員8人が死亡するという海難事故である。とりわけ、犠牲者の多くが高校生や教員だったために、この大惨事に対する国民の悲痛や憤激は並々ならぬ度合いに達していた。

「高まる政府批判を後押しする形で、いっそう強めたのは、後手に回る朴政権のMERS対策だった。その批判の急先鋒になったのが、今の文在寅政権を支える与党でした」

   箱田さんはそう言う。立場代わって今回の新型コロナ対策の矢面に立たされた文政権は、4月15日の総選挙の「信任投票」に向け、尋常ではない「背水の陣」で臨まざるを得ない立場にあった。

   政権にとって幸いなことに、対策で活用できる資源はすでにあった。感染症対策については韓国版CDCとでもいえる常設の「疾病管理本部があり、今回もすぐに本格的な司令塔となった。さらに流言飛語がデマとなって拡散したり、政府や自治体の首長が政治対立して初期対応に遅れたりしたSEASの教訓を踏まえ、「情報の透明性」を徹底したことも、国民の危機意識の定着に役立ったという。

   疾病管理本部の総責任者、鄭銀敬さんはMERS対策も経験し、2017年に本部長に就いた。連日のように会見を開いて新たな感染者、死者、検査人数を発表し、懇切に質問に答える彼女に対する国民の信頼は厚いという。

   検査数を多くするかどうかについて、韓国と日本の反応は異なる、と箱田さんは指摘する。

「日本では専門家の意見も割れており、PCR検査の精度を考えれば、むやみに数を増やすべきではない、という意見も強い。ただ、検査したい人を拒まないという点では、韓国方式にも意味がある。韓国では、検査をして安心感を得る、という点にメリットを感じる人が多いようだ。もちろん、いったん陰性だから安心、とはならない。ただ、お年寄りと同居するなど、気になる人は、事実上いつでも検査を受けられる」

   実際、当初は厳しく検査を絞り込んでいた日本も、検査を拡充すべきという意見は強まってきている。だが、この点についても箱田さんは、「医療態勢」との連携にも注意を向けるべきだと指摘する。「陽性者が増えた時に、どれだけケアできるのか、その点を踏まえるべきだろう。検査の数の多少だけを問題にするのでなく、医療態勢との兼ね合いを考えることも大切だ」。

   今回の韓国の場合は、発熱などの症状のある人で、かつ感染者との接触が疑われる人は他の患者から分離して治療を行う特定の診療所を設け、さらに症状があって感染者との接触がない人が通う「国民安心病院」という別のコースも設けた。

   さらに、無症状の感染者には、政府や企業の寮などを借り上げて医療スタッフがケアする簡易施設を提供した。こうして、陽性を疑われる人々が、すべて同じ窓口に殺到して医療態勢が疲弊するのを防ぎ、重症者の病床を確保してきたという。こうした「4層システム」を構築するのが韓国の方式だった。検査数増大にあたっては、こうした「受け皿」の準備も必要になる、との指摘だ。

「韓国ではナイトクラブなどで2次感染が出ているが、ソウルの知り合いと話すと、第1波の時よりも落ち着いている。それは、やはり感染拡大防止のシステムが構築されていることへの信頼感があるからではないか」
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