2024年 4月 23日 (火)

外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(10)
「韓国モデル」が意味するものは何なのか

人気店や企業から非公開の招待状をもらおう!レポハピ会員登録

韓国の感染状況はどうだったか

   韓国では感染がどう広がり、「第1波」の抑え込みに成功したのか、ここでざっと振り返っておきたい。

   日本で韓国の感染拡大が大きく報じられたのは2月22日、韓国保健福祉省がそれまでの3日間で感染が8倍以上に急増して、感染者が計433人に達した、と発表した時だった。感染者が拡大しているのは韓国南東部の大邱(テグ)とその周辺。とりわけ大邱の新興宗教団体「新天地イエス教会」の行事に参加した人に広がっており、感染者のほぼ半数が教会の信者だった。

   文在寅大統領は同25日に大邱を訪れ、「国の力を全て集め、ウイルスとの戦いに必ず勝つ」と宣言。政府はそれまでに大邱広域市と慶尚北道の一部を「特別管理地域」に指定したうえ、3月に始まる小中高校の新学期開始を1週間遅らせ、国会を閉会し、司法も緊急を要する事件以外の裁判を延期するよう求めた。

   感染はさらに拡大し、同26日には保健福祉省の発表で感染者が1261人に達し、中国に次いで1千人を超えた。死者もこの時点で12人になり、保守系メディアを中心に文政権の対応を問題視する空気が広がった。しかし感染の急増は収まらない。同28日にはそれまでの1週間で感染者が10倍に増え、2337人まで増えた。ちなみに、前述のニューヨーク・タイムズが「ピーク」と指摘したのは、その翌日の29日のことだ。

   だが、この感染者急増の陰には、その時点ですでに8万人近い検査を終えるなど、過去の教訓を生かした防疫態勢の強化があった。

   その時点で、国の研究機関や民間医療機関の計約100か所でPCR検査を行い、感染の震源地である大邱を中心に1日当たり5千人~1万4千人のペースで検査を進めていた。検体採取の時間はそれまでの30分から10分にまで短縮され、1台で1日に検査できる人数は3倍の60人になっていた。他方、政府は宗教団体から約31万人の名簿提供を受け、自治体と協力して総当たりの聞き取り調査を進めた。

   3月1日にはソウル市が、「新天地イエス教会」の信者が当局に協力せず、信者名簿に漏れや虚偽記載があったとしてイ・マンヒ総会長と教団幹部を殺人や感染症予防違反などの罪でソウル中央地検に告発し、イ総会長は2日、初の会見に応じ、土下座して謝罪をした。だがその後、韓国におけるニュースは日本のメディアから徐々にフェード・アウトしていく。感染爆発はイタリア、スペイン、独、仏、英国に移行していったからだ。

   ニューヨーク・タイムズが指摘するように、この間韓国は、早期検査の態勢を1日2万件まで拡充し、4月2日時点で検査数が43万件を超えた。「新天地」の31万人名簿をもとに積極的に検査をする一方、海外からの入国者に「ウォーク・スルー」の検査を行い、3月26日からは、感染確認の10分後には感染者の行動履歴を解明する「感染者追跡システム」の運用も始めた。

   こうした感染拡大防止の施策が功を奏し、4月15日に行われた総選挙(定数300、任期4年)では、文在寅政権を支える進歩(革新)の与党「共に民主党」が54議席を積み増し、全議席の6割を得る圧勝になった。

   こうして、いったん沈静化した韓国の感染が再びクローズアップされるようになるのは、5月中旬のソウルの繁華街・梨泰院にあるクラブから集団感染が発生したためだ。これは5月6日に同地区のクラブ3軒を訪れた20代の男性客の感染が判明し、11日までに86人の感染を確認。ソウル市は、周辺にいた約1万人の携帯電話の接触情報を入手して検査を促したが、電話番号の虚偽記載や電話に出ないなどの限界があり、13日時点で2万2千件の検査を実施し、119人の感染を確認した。これによってソウル市は9日にクラブなどの遊興施設に事実上の営業禁止措置を取るなど、規制の再強化を迫られている。

   だが、「第1波」の沈静化を経た行動制限緩和によるこうした余波は、中国や日本にも起きており、これはまた別に議論すべき問題だろう。米ジョンズ・ホプキンス大の「ダッシュボード」によれば、6月22日時点で韓国の感染者数は1万2438人、死者数は280人で、欧米よりも感染が抑えられているとされる日本の感染者数1万7780人、死者数955人と比べても、かなり低い数値を保っている。

姉妹サイト

注目情報

PR
追悼
J-CASTニュースをフォローして
最新情報をチェック
電子書籍 フジ三太郎とサトウサンペイ 好評発売中