2024年 4月 19日 (金)

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北海道教育大で教える閔鎮京さんに聞く

   韓国の人々は、今回のコロナ禍をどう受け止めているのか。それが知りたくて、6月20日、北海道教育大岩見沢校で教える閔鎮京(ミン・ジンキョン)准教授にZOOMで話を聞いた。

   ソウル生まれの閔さんは韓国で声楽を学び、卒業後はオペラ演出助手・制作に携わった。その後、文化庁に招へいされ、助成金を得て来日し、東京室内歌劇場で研修を受けた。東京芸大の博士課程で文化政策を学び、06年から岩見沢校で、文化政策・アートマネージメントを教えてきた。

   韓国において、新型コロナで初の感染者が確認されたのは1月20日。閔さんはその前日に韓国から日本に戻り、その後はネットや電話などで知人や友人たちと連絡を取り合った。

   「新型コロナの危機対応で大切なのは、素早く、完璧に抑え込むこと。その点で政権の対応は評価したいが、感染者の情報を公開したために、プライバシーや人権の問題が起きた」というのが共通した知人たちの声だったという。

   閔さんによると、2016年に朴槿恵・前大統領を弾劾訴追し、翌年の罷免に追い込んだ経験は、韓国の人々に、「声を挙げれば、大統領ですら、辞めさせることができる」という自信を与えた。だが今回のコロナ禍で大きな政権批判は起きず、むしろ政権と同じ方向で団結する力が働いた。これは、97年の通貨危機の「国難」に際して、国民が一丸となって以来のことではないか、と言う。

   だが、その一方で今回新たに生じたのは、感染者追跡システムがもたらしたプライバシーや人権の問題だった。感染者が出た地域の人々には、アプリを導入していない場合にも、全員の携帯に通知が出される。これは日本の緊急地震速報に似ている。だが、そこでは、感染者の年代、性別や行動履歴が逐一報告される。

   有志が開発した「コロナマップ」という別のアプリを使えば、過去の感染者のデータも検索できる。何番目の感染者が24時間、あるいは4日以内に、具体的にどの店に立ち寄り、どの交通手段を使ったのか、海外からでも検索できるという。当局からの通知では感染者は匿名だが、他の情報を重ね合わせれば、人物像を絞り込むこともできる。

   これでは、感染者への非難やバッシングにつながる恐れがあるのではないだろうか。閔さんによると、初期の感染源「新天地イエス教会」へのバッシングが、大邱という地域全体への偏見につながり、その地域の人から感染が広がると、「大邱の人が、また感染を拡大させた」などの非難の声が出たこともあるという。

   だが、これに性的少数者(LGBT)が絡むと、問題はさらに微妙になる。5月初めにソウルの繁華街・梨泰院で起きた集団感染では、ゲイの男性が多く集まるクラブが感染源の一つになった。衛生当局が名乗り出るよう求めても、なかなか経路を特定できないのは、まだ日本ほど、LGBTに対する包容力がない韓国社会の現実があるからだ。

   感染経路を特定し、情報を公開するという公衆衛生上の要請と、個人の行動履歴を知られたくないというプライバシーのバランスをどう考えるか。これは韓国に限らず、どの社会にも突きつけられる問題だと思った。

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