2024年 4月 25日 (木)

外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(10)
「韓国モデル」が意味するものは何なのか

建築予定地やご希望の地域の工務店へ一括無料資料請求

コロナ禍の中の韓国の文化支援、日本とこれだけ違う

   閔さんには、そのインタビュー前の6月14日、札幌でお目にかかった。閔さんが知人と実施したアンケート調査を取材するためだ。

   札幌圏の文化芸術を担う人々が、コロナ禍でどんな打撃をこうむり、どんな支援を求めているのか。その実態を5月の10日間をかけて問い合わせ、個人938件、団体・事業所164件から回答を得た。

   その結果、札幌圏での表現分野は音楽と演劇が25%前後ずつで、舞踊16%、美術の15%が続くが、アイヌ口承から、落語・漫才にいたるまで、47の多彩な分野にわたることがわかった。

   今回のコロナによる活動自粛で、個人の9割が活動の延期や中止を余儀なくされ、その損失は3億4千万円以上、団体を含めれば10億円以上に及ぶことも判明した。

   多くの文化の担い手が望むのは、コロナ禍が始まる前まで続けてきた活動を、再開することだという。日本では、政府や自治体がイベント自粛を「要請」し、個人や事業者がそれに「自発的に」応えるというかたちを取った。自治体は、要請に応えた飲食店などに「協力金」を払ったが、文化などのイベント中止について補償金は出ていない。それは、文化一般を「不要不急」という言葉に括られたため、関係者が大きな声で権利や損失補償を求められないためではないか、と閔さんはいう。

「今回の自粛要請では『不要不急』という感情的・主観的な判断基準と、『3密』という客観的な判断基準が区別されずに使われた。そのため、文化芸術は『不要不急』という刷り込みがなされてしまったのではないか」

   韓国ではどうだったのか。韓国ではこの間、国公立の劇場は閉鎖されたが、民間の小劇場では感染防止策をとったうえで公演を続けた。ミュージカル「オペラ座の怪人」の世界ツアーも、一時感染者が出て中断されたものの、ソウルの1600席の劇場で上演していた。芸術や文化活動は、あくまで、やる側の責任と義務に委ねるという姿勢だ。

   では、支援策はどうか。政府は2月から、公演を続ける小劇場などに消毒薬など物品を提供し、文化芸術関係者への専用相談窓口を設けた。3月には芸術家らに特化した「緊急安定基金」を設け、無利子に近い融資を始めた。韓国では、演劇や伝統芸能、ダンス、マンガなど、課目外の活動分野で、小中高に「芸術講師」と呼ばれる専門家を派遣して指導にあたる制度がある。政府は、この間の休校で仕事を失った約5100人の「芸術講師」に、給与を前払いする措置をとった。

   6月に発表した韓国文化体育部の今年度第3次補正予算には、約3400憶ウォン(約303億円)の文化支援策が盛り込まれた。これは、観光・宿泊業を振興する日本の「Go Toキャンペーン」に、劇場公演や映画上映、ギャラリー展示などの文化活動を加えるような支援策だ。ここに、文化芸術を「基幹産業」と位置付ける韓国の姿勢が表れている。この補正予算には、8千人以上の芸術家に作品制作を依頼して、町に公共芸術として展示するプロジェクトも含まれている。

   日本では、文化支援といえば「オンライン化」が主流だが、韓国の支援策を一口でいえば、きめ細かい施策によって、「文化の担い手を守り、多様性を持続させる」点にあるといえるだろう。

姉妹サイト

注目情報

PR
追悼
J-CASTニュースをフォローして
最新情報をチェック
電子書籍 フジ三太郎とサトウサンペイ 好評発売中