2024年 4月 26日 (金)

外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(10)
「韓国モデル」が意味するものは何なのか

建築予定地やご希望の地域の工務店へ一括無料資料請求

「産業」としての文化を推進

   閔さんによると、こうした姿勢の背景にあるのは、金大中政権に始まる一貫した文化戦略だ。戦後の軍事政権において、文化は政治統制の手段であり宣伝活動と同義だった。それが大きく変わるのは、1993年の金泳三政権による民主化以降だ。すべての国民が文化・体育に参加する「文化福祉国家」というビジョンは、98年からの金大中政権に引き継がれ、大きく発展する。金大中大統領は文化を「基幹産業」と位置づけ、国をあげて輸出を後押しした。2000年に文化関連予算が前年比で45%増額し、史上初めて予算全体の1%という目標に達した。

   軍事国家による中央集権体制が長く続いた韓国では、地方分権も導入が遅れた。03年に生まれた廬武鉉政権は、文化政策を地方分権に結び付け、新たな国土均衡発展のモデルを打ち出した。「アジア文化」の光州、「伝統文化」の全州、「歴史文化」の慶州、「映像文化」の釜山など、それぞれの地方にある独自の文化や歴史に応じた事業を興し、個性を際立たせた。

                                    (図表:閔鎮京さん作成)
                                    (図表:閔鎮京さん作成)

   こうした文化戦略は、その後も保守系の李明博、朴槿恵政権に継承され、朴大統領は就任式で「21世紀は文化が国力の時代」と演説するまでになった。だが、2015年の国政監査で、朴政権が文化芸術界の9473人を「ブラックリスト」に掲載していたことが判明し、文化が再び政治の統制と介入の場に戻りつつあることが暴露された。

   廬武鉉政権の側近で、民主派の流れを汲む文在寅政権は、間違いなく従来の「文化基幹産業」論を継承するだろうと、閔さんはいう。文政権のもとでは、文化の担い手の労働環境を改善する「芸術家福祉政策」や、国民の生活の質を高める「文化福祉政策」に力点を置く点が、それ以前の施策とは違うともいう。

   閔さんによると、韓国の日本への文化輸出は、03年に始まる「冬ソナ」で女性層をつかみ、その後の「宮廷女官チャングムの誓い」などの歴史ドラマで男性中高年層に支持を広げ、2010年の「美男ですね」放送で若年層を巻き込んで今に至る。並行してKPOPでも「BoA」や「東方神起」、その後の「KARA」が日本でヒットを連発した。だが、2012年にPSYの「江南スタイル」が全米でヒットして以来、BTSがビルボード200のトップになるなど、その戦略は今や日本にとどまらず、世界に向けられている。おそらく韓国の関係者はすでに、「コロナ後」に出現する新しい文化の潮流をリードしようと将来を見据えていることだろう。

   「韓国の文化政策は、単に『稼げる文化』を目指したわけではありません。20年以上の歳月をかけて人材を育成し、資金で後押しをして、文化を『産業化』するという目標を掲げてきました」と閔さんは話す。昨年には「韓流」とコンテンツ企業の輸出を支援する「新韓流保証」制度を設け、さらに、企画開発を後押しするファンドも起ち上げた。

「今回のコロナ禍を経て、文化芸術がどう変わっていくのか。日韓の動きをこれからも見守っていきたいと思います」

ジャーナリスト 外岡秀俊




●外岡秀俊プロフィール
そとおか・ひでとし ジャーナリスト、北大公共政策大学院(HOPS)公共政策学研究センター上席研究員
1953年生まれ。東京大学法学部在学中に石川啄木をテーマにした『北帰行』(河出書房新社)で文藝賞を受賞。77年、朝日新聞社に入社、ニューヨーク特派員、編集委員、ヨーロッパ総局長などを経て、東京本社編集局長。同社を退職後は震災報道と沖縄報道を主な守備範囲として取材・執筆活動を展開。『地震と社会』『アジアへ』『傍観者からの手紙』(ともにみすず書房)『3・11複合被災』(岩波新書)、『震災と原発 国家の過ち』(朝日新書)などのジャーナリストとしての著書のほかに、中原清一郎のペンネームで小説『カノン』『人の昏れ方』(ともに河出書房新社)なども発表している。

1 2 3 4 5 6 7 8
姉妹サイト

注目情報

PR
追悼
J-CASTニュースをフォローして
最新情報をチェック
電子書籍 フジ三太郎とサトウサンペイ 好評発売中