2024年 4月 26日 (金)

岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち
討論会の夜、NYの街頭で聞いた「トランプ支持」

「トランプは、バイデンみたいに偽善的じゃない」

   その夜、討論会の3時間前に別の店に立ち寄り、男性客の1人に何気なく、「この街は民主党支持者が多いから、トランプ支持者の声も聞きたいのよね」と話すと、「僕、そうだよ」と手をあげた。この街では、トランプ支持を口にするのを、はばかる人が少なくない。

   その男性は近所に住み、仕事でテキサス州ダラスと行き来する生活をしているという。

   「ダラスは共和党寄りだから、こことは対照的だよ」と笑った。

   別の店の外で、夫婦らしき2人が食事していた。誰を支持しているか私が尋ねる前に、「トランプ支持よ。あなた、トランプのことを話せる人がいて、よかったわね」と、女性が目の前の男性に言った。

   女性は「討論会は家に帰って、ソファで見ないと」と笑う。民主党支持者に囲まれているのは、居心地が悪いという。その後、地下鉄に乗り、グリニッジビレッジへ向かう。若者の多いリベラルな地域だ。9月29日に最初の討論会を客に混じってテレビで見た店に立ち寄った(この連載「バーの客も怒鳴り合う大統領戦討論会の夜」で取り上げた)。

   店の前にいた男性が、「あの時、ここで会ったね」と声をかけてきた。一緒に討論会を見た民主党支持のメキシコ系アメリカ人だった。

   そこへ、背の高いスリムな黒人男性(37)がやってきた。

   彼は大学在籍中の19歳の時に友達と起業し、成功した。民主党支持者だった彼は、企業をきっかけに共和党を支持するようになった。4年前にはトランプ氏に投票した。

   開口一番、「トランプがろくに税金を払わなかったと言われているけど、ビジネスをしていると、抜け穴がいろいろあるんだ。僕も同じことをしている。バイデンになったら、税金が高くなるよ」と言った。

   彼は私に向かって続ける。

「君や僕のようなマイノリティのことなんか、共和党も民主党もどうでもいいと思ってるのさ。でも少なくともトランプは、バイデンみたいに偽善的じゃない。バイデンが『もし私かトランプか迷っているとしたら、君は黒人じゃない』って言ったけど、黒人だったら当然、自分に投票する、ってことか?」

   最初の討論会の時、このバーで会った別の黒人青年も、同じことを言った。

「警官の手で黒人が殺される事件は、前からいくつもあった。今回の事件では、選挙前に混乱を起こして国を二分するために、黒人の死が政治利用されたのさ」

   彼は共和党支持に変わったものの、オバマ大統領に2度、投票した。

「オバマの社会福祉政策を支持したけれど、経済政策は賛成できないものが多かった。でも彼は、黒人でも大統領になれると、僕らに自信を与えた。認められるのに、人一倍、努力が必要かもしれない。時間がかかるかもしれない。でも黒人にもできるという自信が、必要なんだ」
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