2021年 1月 23日 (土)

外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(29) 米国はバイデン政権下で分断を克服できるか

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   米大統領選は2020年12月14日、選挙人投票が行われ、民主党のバイデン候補が選挙人の過半数を制し、次期大統領の座を確実にした。だがコロナ禍に揺れ、激戦の末に勝利をもぎ取ったバイデン氏は「分断」や「格差」を克服できるのか。アメリカ研究第一人者の古矢旬・東大・北大名誉教授に話をうかがった。

  •                         (マンガ:山井教雄)
                            (マンガ:山井教雄)
  •                         (マンガ:山井教雄)

抑圧された票の解放が高い投票率に

   古矢さんは米プリンストン大で修士・博士号を得て長く北大、東大大学院などで教鞭をとった。アメリカ政治外交史を中心に著書も多く、今年8月には岩波新書「シリーズアメリカ合衆国史」の第4巻「グローバル時代のアメリカ 冷戦時代から21世紀」を上梓している。

   今回の米大統領選で古矢さんが注目したのは投票率の際立った高さだ。

   米NBCの11月5日報道によると、投票者数は1億6千万人近くで、投票率は推計66・7%。これは20世紀に入って以降最高であった1908年の65・9%を上回る可能性があるという。

   米CNNが11月25日に報じたところでは、バイデン氏は史上初めて8千万票超を獲得し、トランプ氏もその時点で7387万票を得た。これは自らの4年前の得票数6297万票だけでなく、過去最多だった08年のオバマ氏の6949万票を上回る史上第二位の得票数だった。

   いうまでもなく、米大統領選は有権者が各州及び首都ワシントンで投票し、一票でも上回った候補が人口に応じたその州の「投票人」を総取りし(ただしネブラスカとメインはこの総取り制の例外)、全米選挙人の過半数270人を取れば勝者になる「二段階方式」だ。必ずしも一般投票の得票数が勝敗を分かつ結果にならないことは、前回ヒラリー・クリントン候補が一般得票数で上回りながら敗北したことでも明らかだ。それにしても、これだけ多数の有権者が投票したのは異例といっていい。その点について古矢さんはこう指摘する。

   「今回の選挙の投票率は、1900年(73・9%)以来、120年ぶりの高さといわれる。19世紀末は『政党の時代』と呼ばれ、民主党も共和党も躍起になって票を掘り起こした。だがその後は大統領選で5割から6割前後、中間選挙で4割程度の投票率の時代が長く続いた。前回の選挙でトランプ氏やサンダース氏が新しい票田を掘り起こし、その上に今回はコロナ禍による郵便投票、期日前投票で大量の新たな票が投ぜられたと思われる」

   もちろん今後、両候補に占める郵便投票、期日前投票は各州、各郡ごとの結果を詳細に分析する必要があるが、古矢さんは、それらの方式によってこれまで抑えられてきた黒人らマイノリティ票が大量に掘り起こされた可能性が高い、という。

   米国は広い。アラスカに次ぐ面積のテキサス州は日本の1・8倍の広さだ。この大きさが建国以来、大統領選投票でも様々な隘路になった。米国では西に行くほど州の面積が大きくなる傾向があり、州都は州の真ん中に位置することが多い。東西南北、地理的にも権力や役所機構に平等にアクセスできるようにとの配慮からだ。だが、民主政にとってこの広さがしばしば問題になる。米大統領選は4年ごとの11月第1月曜日の翌日に行われるが、もともと平日の1日をつぶして遠方の投票に行けるのは暮らしにゆとりのある階層だ。さらに、近年とくに共和党が州議会で多数を握る州では、投票資格条件を厳格化し、有権者登録に加えて公式のIDや写真付きIDを要求したり、投票できる場所を絞ったり、マイノリティに不利なように選挙区を区割りする「ゲリマンダー」をしたりするなど、様々な方法で投票に制限をかけてきた。

「郵便投票や期日前投票が増えた背景には、むろんコロナ禍があるが、同時にそれは、いかにこれまで、とくにマイノリティーズの投票が不公正な投票システムによって抑圧されていたのかを示す結果でもあったといえる。その意味で、今回の高得票率は郵便投票が『抑圧された票の解放』をうながしたことを意味している」

   この点を機敏に察知したトランプ陣営は、選挙前から郵便投票や期日前投票が大量の不正投票につながると主張してきた。だが、そうした危惧が言い立てられただけに、州議会で共和党が優勢な州ほど、選挙管理を担う人びとは公正で厳密な投開票作業に努めたと報道されている。実際トランプ陣営がいくら訴訟を重ねて不正を主張しても、大量の不正投票の存在を裏付ける客観的な証拠は見つからず、ついにはバー司法長官すら、12月1日、その主張を裏付ける「証拠は見つからなかった」と発言し、退任に追い込まれる結果になった。

   「今回の投票率の飛躍的な上昇は、これからその背後に大規模な不正の存在が証明されない限り、アメリカ・デモクラシーの投票制度の変更の大きな契機になる可能性がある。勝敗の結果だけでなく、また郵便だけでなくネットの利用も含めたアメリカの民主制度の質の変化にも注目したい」と古矢さんはいう。

   ところで、私たちはトランプ政権からバイデン政権への移行を既決事項としているが、厳密にいえば、わずかながらまだ波乱の可能性はある、と古矢さんは指摘する。12月14日の選挙人投票は、1月6日に連邦議会の上下院が承認して初めて確定する。だがそれまでの間、あるいは就任式前にバイデン氏にもしものことが起きた場合や万一議会が選挙人投票の結果を承認しなかった場合には、誰が政権を引き継ぐか、合衆国憲法には明確な規定がないのだという。それらの場合には、連邦憲法修正12条、すなわち、どの候補も選挙人票の過半数を獲得しない時は、連邦下院の投票(ただしこの場合は、下院の議席数と関係なく州ごとに一律一票を投ずること)によって大統領を選出することになる可能性がある。連邦下院の現状を州ごとに見れば、支配数では共和党が優勢だ。トランプ陣営は、最後にはその可能性に賭けているように思われるので、就任式まで、バイデン氏もまだ気を緩めることはできないのだという。

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