2021年 7月 27日 (火)

汚染されたネット広告、大企業も関与 「バレなければ問題ない」2兆円市場の影

   「飲むだけで痩せる」「毛穴の汚れがごっそり」「シミの漂白剤と話題」――市場拡大が続くネット広告で、誇大・虚偽表示が後を絶たない。自浄作用が働かず、国が対応に乗り出すほど深刻な事態となっている。

   関係者に取材を進めると、業界のゆがんだ構造が見えてきた。

  • 誇大・虚偽広告の例
    誇大・虚偽広告の例
  • 誇大・虚偽広告の例

1万件以上も苦情

   電通の発表によれば、2020年のネット広告費は2兆2290億円で、テレビや新聞などマスコミ4媒体の2兆2536億円に匹敵するほど成長を続ける。

   それに比例して、生活者を欺くような広告も増えている。公益社団法人「日本広告審査機構(JARO)」に2020年度に寄せられた広告の苦情件数は約1万2000件と過去最多だった。

   対象は、健康食品や化粧品、医薬部外品といった美容・健康関連が目立つ。JAROは

「毛穴の汚れがごっそり取れる、ノーベル賞受賞成分のコスメなどとうたい、鼻の角栓の合成写真を広告に使っていた化粧品のジェル」
「飲むだけで痩せる、返金保証、6日分500円とあったが定期購入契約になっており、解約を申し出ても1年間継続購入しないと解約できないという健康食品」

と訴求していたアフィリエイト広告(成果報酬型広告)などに厳重警告している。

   アフィリエイト広告は、アフィリエイターと呼ばれる広告制作者が、代理店の依頼を受けるなどして、広告主の商品を記事などで宣伝する。販売サイトへの送客数や契約数に応じて、制作者は報酬を得る。

   矢野経済研究所の調査では、20年度のアフィリエイト広告市場は3258億(前年比5.2%増)の見込みで、4年後には4951億円に拡大すると予測する。同社は成長理由に「大手企業であるナショナルクライアントのアフィリエイト予算の拡大」「アフィリエイト市場参入企業の増加の可能性」を挙げている。

矢野経済研究所ウェブサイトより
矢野経済研究所ウェブサイトより

   アフィリエイト広告をめぐっては、消費者庁が実態調査に乗り出している。あわせて、有識者による検討会を設置し、適正化に向けた方策を年度内に取りまとめる方針だ。

消費者庁が景表法違反で措置命令を出したケースも(消費庁資料より)
消費者庁が景表法違反で措置命令を出したケースも(消費庁資料より)

第一三共ヘルスケア、大正製薬のグループ会社でも...

   J-CASTニュースが調べたところ、第一三共ヘルスケアの化粧品ブランド「ブライトエイジ」で、景品表示法違反(優良誤認)の可能性があるアフィリエイト広告が見つかった(詳報:第一三共ヘルスケア商品で「不適切広告」発覚 事前チェックで不備...「再発防止に努める」)。

   また、大正製薬グループのスキンケア商品「Shirosae-しろさえ-」でも、不適切なアフィリエイト広告が見つかった。

   「【大正製薬グループが開発】シミの漂白剤と話題の〇〇なら約1週間でシミ悩みが消える!?」と題した広告ページでは、「シミの漂白剤」「レーザー治療級!」と効果を標榜し、「美容へのこだわりが強い芸能人も使うだけあって辛口で有名な口コミサイトでも絶賛の嵐...!」と訴求しているアフィリエイターもいた。

掲載されていた広告
掲載されていた広告
掲載されていた広告
掲載されていた広告

   それらのアフィリエイターは、商品使用前後の女性の顔写真を使っていたが、スペインの美容クリニックのサイトなどで全く同じ写真が見つかった。

   大正製薬子会社でShirosaeを販売する「ドクタープログラム」は取材に、「弊社の監視活動において、薬機法の観点から使用前後の比較画像の使用が不適切と判断し、改善の指示を出しておりました」と回答した。すでに当該広告は配信停止したという。

   同社によれば、関連法規を遵守した広告を配信するよう、広告代理店に指示している。

「薬機法、景表法を遵守した適正な広告の出稿を監督する立場から、広告代理店を介した運用者へのガイドランとなる資料の提示を行うと共に、監視活動を行い、不適切な広告は発見次第、広告代理店を通じてサイトの修正依頼または配信停止をするなど、広告の適正化に努めております」

広告プラットフォーマーは「やめたくてもやめられない」

   なぜ不適切な広告が蔓延してしまうのか。

   通販会社の社長A氏が匿名を条件に取材に応じ、背景を次のように話す。

「D2Cという言葉(Direct to Consumerの略、ネットを通じて生活者に直接販売する取引形態)が流行ったことで通販事業者が増えているためです」「新規参入業者は、上場企業などの大きなブランドの広告を参考にしているはずです。大企業が法律違反をしていると、悪いことをしている感覚すらなく延々と違反のバトンが引き継がれていく構造があると思います」
「また、バレなければ問題ないと考えるアフィリエイト会社も比例して増えていると考えられます。広告表現を違反すればするほど利益率が高くなるため、手を染めてしまうのではないでしょうか」

   ある代理店関係者は「ダイエット食品やバストアップサプリなどのビフォー・アフター写真はほぼ捏造です。それぞれ他人の写真を使ったり、フォトショップ(画像編集ソフト)で加工も当たり前です」と取材に証言した。

消費者庁の注意喚起チラシ
消費者庁の注意喚起チラシ

   摘発を受けた事業者もいる。大阪府警は20年7月、医薬品かのようにサプリメントの効果や効能を宣伝したとして、販売会社「ステラ漢方」や東証一部上場の広告代理店「ソウルドアウト」の社員ら6人を薬機法違反の疑いで逮捕した。その後、業界に変化はあったのか。

「少し前までは、サプリメントの会社はとても多かったです。ステラ漢方が逮捕された影響で、(広告の掲載)媒体も健康問題も相まってサプリに関しては厳しくなり、現状はかなり減っていると思います。一方で、いまは基礎化粧品やコンプレックス系の化粧品(シミケア商品、スカルプシャンプーなど)で、薬機法や景表法を無視した会社が増えていると感じています」(A氏)

   今年8月には改正薬機法が施行され、虚偽・誇大広告に対して新たに課徴金制度が設けられる。A氏は「遵法意識は生まれてくるとは思いますが、大きな問題にならない限りはチキンレースをする会社が多く、あまり変わらないのでは」と抑止効果は限定的との見方だ。

   A氏は、広告主の無責任さも指摘する。

「正直怠慢だと思っています。弊社は代理店さんにお任せする部分も全て事前にチェックしています。企業努力でおこなえる範疇です。広告主が違反をしても、代理店やアフィリエイト会社に責任転嫁しても問題ないような構図になっていることに問題意識を強く持っています」

   前述の消費者庁の検討会で、弁護士の池本誠司委員は「広告を展開して商品・役務を供給し利益を得る事業者=販売業者等が、広告表示の内容について責任を負うことが基本である」と強調している。

   是正のためには、グーグル、フェイスブック、ヤフー、ラインなど大手広告プラットフォームのチェック体制強化も不可欠だと説く。

「違法行為を是とする広告主は常に居続けると思っています。なので、そういう方々が排除される広告媒体のロジックがないといけないはずです。テレビCMはまさにそうなっており、考査で表現の規制が入るため不適切なものが必然的に流れませんが、インターネットはそうなっていません。自社だけ基準を高くすると他社に広告予算が流れてしまい、グノシーのように(※)炎上しない限り収益的にやめられない状況が出来上がっている」(A氏)

   ※グノシー子会社digwellが虚偽広告を制作し、グノシーがアドネットワークと呼ばれる仕組みを通じて複数のウェブサイトに配信していたことが20年3月、毎日新聞と調査報道グループ「フロントラインプレス」の報道で発覚した。

   グノシーは20年4月に広告掲載ガイドラインを全面改定し、社内の審査体制強化を発表した。審査の厳格化により、2020年5月期に全体の68%を占めていた美容・健康商品の広告は、2021年5月期第3四半期には24%と大幅に減少している。それに伴いアドネットワークの売り上げは減少傾向が続く。

グノシー2021年5月期第3四半期決算資料より
グノシー2021年5月期第3四半期決算資料より

自ら方針転換した広告事業者も

   自主的に広告の健全化に踏み切った事業者もいる。

   中国の検索大手バイドゥ傘下の「popIn(ポップイン)」は5月下旬から、自社の広告配信プラットフォームで配信基準を引き上げた。同社は新聞社や出版社、ネット専業メディアなど900以上のウェブサイトをネットワーク化し、提携する広告代理店140社の広告出稿を仲介する。

popInの発表文
popInの発表文

   具体的には、薬機法や景表法などに抵触する広告や、外見を揶揄するコンプレックス広告(※)の配信を禁止する。※詳報:YouTube「外見蔑視」広告に抗議の署名運動 体形・体毛など漫画で...発起人「人を傷つけることにもなるとわかって」

「今まで不適切な広告に目をつぶっていました。グーグルやフェイスブックのような大手でも出ているのに、なぜうちのような小さい企業がいけなのかと、エクスキューズを探しながら、正当化しながら、審査を通してしまっていました」

   ポップインの高橋大介副社長は取材に、後悔を口にした。

   広告の問題は数年前から社内で共有されていたという。19年10月にはサイバーエージェント、グノシー、ログリーなど9社と共同声明を出し、「ネット広告の健全化に向け、フェイク広告やコンプライアンス違反広告を根絶するために連携して対応策を検討していくことで合意しました」と宣言していた。

9社の共同声明
9社の共同声明

   しかし、「平たく言えば失敗した」(高橋氏)。根絶に向けてガイドラインの策定や定期的な情報共有を予定していたが、足並みがそろわず形骸化してしまった。

   配信基準の引き上げも行ったが、収益が大幅に下がり、代理店、メディアから猛反発を受けた。親会社からも改善を強く求められ、3か月ほどで元の基準に戻さざるをえなかった。横の連携の難しさ、提携企業への事前交渉の重要性を痛感したという。

   転機となったのが、プロジェクターとスピーカ-が一体化した天井照明「popIn Aladdin(ポップインアラジン)」の大ヒットだ。

   広告主としての顔を持つようになり、会社のブランディングや将来性を強く意識するようになる。薬機法改正も控えていたこともあり、健全化にふたたび舵を切った。

「事業成長を考えたときに、私たちと組んでくださる会社が多いほどチャンスが広がると思っています。一時的に売り上げに打撃はありますが、正しいことをしていると認めてもらえ、コンプライアンス意識があると評価してもらえないと、ちゃんとした企業は組んでくれない」(西舘亜希子取締役)

   自社で調査したところ、代理店140社のうち25社がグレーな広告を扱っていたことがわかり、「一緒に変わってもらえませんか」と直談判した。5、6社からは賛同が得られず取引停止した。媒体社にも理念を伝え、「(売り上げが)一時的に最大5割落ちる可能性があるが我慢してほしい」と理解を求めた。

   課題の収益面は、大手の広告主を持つ代理店を増やして穴埋めを図ったという。高橋氏は

「法令を遵守した広告とそうでない広告が並ぶと、後者がどうしてもクリックされてしまう。なので、勝てなくなってそれにならってしまう悪循環がありました。『そうした広告をなくすので、良い勝負ができて成果も上がる』と広告代理店に伝えたところ、数社から快諾をしてもらいました」

と明かした。

   引き上げ前は全体の10%ほど掲載拒否、修正依頼をしていたが、現在は4、50%と厳格化した。売り上げは初月で平均3割落ちたが、コンプライアンス意識の高い企業によるトライアル出稿が増えたことで回復基調にある。

「今回の決定の詳細を対外的にも発表したことで、事業の透明性は保たれたと思っています。あとは実績をしっかり作っていくことが重要になってきます。メディアさんには8月までにレベニューを戻すと約束していますので、良い広告を取って戻す。その後は知見をしっかり貯めていき、事故がないよう運転していきます」(高橋氏)

(J-CASTニュース編集部 谷本陵)

   広告をめぐる問題について、引き続き取材を進めていきます。情報をお持ちでしたら、https://secure.j-cast.com/form/post.htmlまでご連絡ください。

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