2024年 4月 28日 (日)

「国防力としての鉄道、全然儲かりませんよ?」 鉄オタ・石破茂議員が指摘する、ローカル線が担う「本来の役割」

   少子化にともなう沿線人口の減少にコロナ禍が追い打ちをかける形で、多くのローカル線が存続の危機に立たされている。

   2022年7月に国交省の有識者会議がまとめた提言では、1キロメートルあたりの1日の利用人数を示す「輸送密度」(平均通過人員)が「1000人未満」の路線について、国が協議会を設置して沿線自治体や鉄道事業者と存廃を含めた議論を進めるように求めている。これを受ける形で、国主導の「再構築協議会」制度を盛り込んだ改正地域公共交通活性化再生法が成立し、23年10月1日に施行。その2日後の10月3日に、JR西日本が芸備線(備中神代~備後庄原)について再構築協議会の設置を要請したと発表した。JRとしては、採算が取れない路線の維持は難しい一方で、沿線自治体としては「地域の足」存続を望む立場だ。

   落としどころはどこにあるのか。永田町屈指の「鉄オタ」として知られる自民党の石破茂元幹事長インタビューの第2回では、ローカル線や、国会でも議論の対象になったライドシェアのあり方について聞いた。(聞き手・構成:J-CASTニュース編集部 工藤博司)

  • 自民党の石破茂元幹事長。ローカル線のあり方について持論を展開した
    自民党の石破茂元幹事長。ローカル線のあり方について持論を展開した
  • 自民党の石破茂元幹事長。ローカル線のあり方について持論を展開した

自動車や飛行機は上下分離なのに

―― JR北海道に限らず、ローカル線には採算が取れず、このままでは維持が難しい路線が全国に多数あります。23年10月には鉄道事業者と沿線自治体の議論を加速させる「再構築協議会」制度が始まり、JR西日本が芸備線の一部について設置を要請しました。(運行会社と鉄道施設の保有会社を分ける)上下分離、単なるバス転換、バス高速輸送システム(BRT)、DMV(デュアル・モード・ビークル=道路と線路の両方を走れる車両)など、さまざまな方向性があると思いますが、どの程度公費を投入すべきかを含めて、落としどころについてどのように考えますか。

石破: 基本、上下分離だと私は思っているんですよね。例えばバスは同じ公共交通機関でありながら、バス会社が買うのはバスだけです。それでも大変なのですが、バス会社が道路も作り、信号機を設置し...となったら、絶対もたない。航空会社が空港を作って管制システムを運用する、ということでは絶対に航空事業は成り立ちません。

なぜ鉄道だけが(事業会社が)線路を作るのか、維持費からみんな負担しなきゃいけないのか。それは、そもそもおかしくないですか?つまり、線路を引き、信号システムといった運行管理は公費で、鉄道会社は上を走らせればいい、という上下分離はそんな難しい話でも何でもなくて、バス会社、航空会社がそうです。同じ公共交通機関でなんで差があるのよ、という話なんですよね。

そうしていくと、今はJRは(ローカル線を)やめたくて仕方がない、地方は残したくて仕方がない。それは交わるはずがありません。そこへ、国が責任を持って「お座敷」を提供しますと(いうのが「再構築協議会」)。これは良いことなんだけれども、そもそも鉄道事業って上下分離であるべきじゃないですか、という、かなりプリミティブ(原始的)な議論からしていくべきだと私は思っています。

―― それでも存続が難しいところはありそうですね。

JR北海道は厳しい経営環境が続く。留萌本線は2023年3月末に留萌-石狩沼田間が廃止された
JR北海道は厳しい経営環境が続く。留萌本線は2023年3月末に留萌-石狩沼田間が廃止された
石破: どうにもならない、1日に数人しか乗らない、そういうものをやめることについては、そんなにコンセンサスが得られないとは思わないです。ただ、北海道には、札幌近郊路線の相当に採算が良いところ、あるいは都市間輸送、そして国境地帯を走る(といったさまざまな環境の路線がある)。日本人はほとんど意識しませんが、鉄道は戦車や弾薬も運びます。そういう役割を、鉄道は本来担うじゃないですか。

日本の場合、JRが戦車を運ぶとは信じられないかもしれませんが、これから先、日本の安全保障環境が非常に厳しくなるときに、そういう国防力としての鉄道、全然儲かりませんよ?それでも例えば原発がダメージを受けて、大量に避難させるときの鉄道、そういう役割をどう評価するかの議論が、あまりなされてないような気がします。

―― 例えば、旭川-稚内間は経営上は厳しいですが、一番北に通じているわけで、ネットワークを維持するという観点からは潰してはいけない、ということですね。

石破: そうですね、宗谷本線(旭川-稚内)なんか、そうだと思いますね。

乗りたくなる鉄道、乗って行きたくなる町をつくるための努力が必要

―― 廃止が取りざたされる路線の沿線住民からは、「自分たちは普段は車だが、路線は残してほしい」といった声があがることもあります。

石破: 「乗って残そうなんとか線」で残った試しはないのであって。いすみ鉄道(千葉)なんかがそうですが、どうしたら乗りたくなる鉄道ができるか。やはり鉄道事業者の責任で、「乗ることだけが目的だ」みたいな人が出ることが大事ですね。乗りたくなる鉄道や、乗って行きたくなる町をつくるための努力が必要です。

―― 銚子電鉄(千葉)は、「ぬれ煎餅(せんべい)」の売れ行きが鉄道事業を支えています。

石破: 人が歩くより速いけど自転車より遅いと言われたり、不思議な鉄道ですよね。銚子電鉄は乗ってみると、すごく面白い鉄道で、ぬれ煎餅を考えてみたり、いろいろなイベント列車を考えたり、事業として銚子電鉄をどうやって存続させるかという、鉄道事業だけではない発想がありますよね。えちぜん鉄道(福井)や叡山電鉄(京都)もそうですが、健闘している鉄道は、それなりのマインドを事業者も自治体を持っているんじゃないですかね。

―― そういったところから持続可能性が出てくると。

石破: そうだと思います。そういう努力を目一杯した上で上下分離というのがあるのであって、上下分離論だからもう大丈夫、何もしなくていい、という話にはなりません。

SLは「観光資源としてしか意味がない」

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肥薩線にはSL人吉が走っていたが(2012年9月撮影)。水害で不通が続き、復旧が課題になっている。SL人吉は24年3月の引退を予定している

―― ローカル線の中には、台風や豪雨で不通になり、その復旧をめぐって存廃の議論に発展するケースがあります。SL人吉が走っていた肥薩線も、そのひとつです。非常に風光明媚な路線で、復旧すれば観光資源として魅力ですが、被災前から赤字で、仮に復旧したとしても持続可能性を疑問視する向きもあります。

石破: SLを走らせるにしても、本当にいくらかかるんだか分からないんですよね。ヨーロッパでもアメリカでも、SLを頑張って走らせているという話は、あまり聞きません。私たちが子どもの時は、ほとんど蒸気機関車が引いてましたけど、トンネルに入るたびに窓閉めるとか大変なことでしたよ。それはノスタルジーとしては意味があるけど、輸送機関としての意味は全くありません。

―― あるとすれば観光資源としての意味ですよね。

石破: 観光資源としてしか意味がない。それで採算が取れるんだったら、やったらどうぞ、ということですね。

―― 前原誠司衆院議員はSLが大変お好きですが、そういう感じでもいらっしゃらないのですか?

石破: あんまりそうでもない、いやー、言わんとしていることは分かるし、「C57きれいだったね」とか、それはそうなんですけど、前原さんみたいに執念を持って写真を撮影するより、私は客車に乗って酒を飲んでる方が好きだった、ということですね。

―― モータリゼーションの発達で鉄道に乗る人が減り衰退につながった、という見方もあります。

石破: それは間違いです。ヨーロッパの方が、モータリゼーションが日本より発達していますからね。ですが、モーダルシフト(交通・輸送手段の転換)というものを本当に徹底して考えているヨーロッパと、日本では、モーダルシフトという言葉だけはあるけれど、鉄道、車、飛行機、船など、それぞれの輸送特性を最大限に生かすためにはどうしたらいいだろう、という議論はあまり行われなかったですよね。

―― 例えば鉄道は大量輸送に向く、といった基本的な議論ですよね。

石破: これだけドライバーが足りない、高齢化が進む、CO2の問題がある、ということになると、やはり貨物輸送はもう少しJRに負わせる、ということは必然だと思います。

ライドシェアは安全対策など前提に「時代の趨勢からいって不可避」

―― 秋の臨時国会では、ライドシェア導入の是非をめぐる議論も出ました。鉄路がなくなった後の交通手段を補完する可能性もありそうですが、日本でも解禁すべきだと思いますか。

石破: 実際、地方でタクシーないし、呼んでもなかなか来ない。私はライドシェアは不可避だと思います。暇な高齢者もいっぱいいるし、言われたらやってみたい、という人もいる。ただ、誰でもできるというわけではなくて、やはり必要な技量、安全を確保するのに必要な車両、そして何か事故が起こったときの保険、この3つを具備すれば、私はライドシェアは必須、時代の趨勢からいって不可避だと思うんですよね。

要は消費者の側にどれだけの情報が提供されているかということであって、ライドシェアでやってきた車が、そのドライバーが確かなのか、車は大丈夫なのか、いざというときに補償はしてくれるのだろうか、そういったことが分からないまま消費者にライドシェアのサービスを提供するのは間違いだと思います。消費者にどれだけ情報が提供されるかの問題だと思います。

―― 東南アジアでは配車アプリ「Grab」(グラブ)が普及しています。そこでは、普通のタクシーだけを呼ぶのか、自家用車でもいいので早く来る車を呼ぶのかなどを選べるようになっています。運転手とつながると、ナンバープレートと名前が出てくる仕組みです。トラブルがあった際の通報機能もついています。少なくともそれくらいのレベルは必要でしょうか。

石破: 最低限、必要ですね。(第3回へ続く、1月6日掲載予定です)

石破茂さん プロフィール
いしば・しげる 衆院議員。1957年生まれ、鳥取県出身。慶應義塾大学法学部卒業後、三井銀行(現・三井住友銀行)入行。1986年、全国最年少議員として衆院議員に初当選。現在12期目。自民党では幹事長、内閣では防衛大臣、農林水産大臣、地方創生・国家戦略特別区域担当大臣などを歴任した。

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