YouTuberマネジメント事業を手掛けるUUUM(ウーム)の東京証券取引所グロース市場上場廃止は、大きな話題になった。2017年に上場を果たした際、この企業が「テレビからネットへ」のメディア革命の旗手になるかと考えられていた。もはや、YouTuberはテレビを主戦場とするアイドルよりも勢いがある。これからの時代は、UUUMを筆頭としたYouTuber事務所がメディア事業を牽引していくだろう......という未来予想は、残念ながら現実にはならなかったのだろうか。今回、UUUMが勢いをもって登場してから現在に至るまで、プレスリリース配信サイトの「PRTIMES」で配信された同社のプレスリリースではどんな内容が情報発信され、そこに変化はあったのか見ていこう。YouTuber向けマネジメント事務所の登場というエポックメイキングUUUMが初めてPRTIMESでプレスリリースを配信したのは、2013年11月15日だった。このプレスリリースのタイトルは、『業界初YouTuber向けのマネジメントプロダクション「uuum(ウーム)」を開設』だ。こう書かれている。uuumは、TOPクラスのYouTuberがよりクオリティの高いコンテンツを制作できるようにサポート、支援するのと同時に、企業様とのタイアップ案件の窓口としての役割を担い、動画制作のサポート業務や、グッズ販売、イベント運営、キャンペーン展開など、さまざまな活動において、YouTuberのパフォーマンスを最大限に活かせるように支援を行ってまいります。なお、執行役員としてHIKAKINTVチャンネルを展開するHIKAKIN氏、顧問としてジェット☆ダイスケ氏が就任したことをここにご報告いたします。(PRTIMESより)当時は、数十万のチャンネル登録者数を抱えるYouTuberはそれだけで生計が立てられるということが認識され始めた頃だった。が、YouTuberだけのマネジメント事務所が果たしてどれだけ社会的影響力を持つようになるのか、正しく予想している人は多くなかった。立ち上げ間もない時代のUUUMのプレスリリースを見ると、HIKAKINやはじめしゃちょーといった「日本人YouTuberの先駆け」が、まさに売り出し中のアイドルのように活動していた。現在は大御所的存在となっているYouTuberが、まさに体を張ってあらゆることに挑戦していた。その後、UUUMが東証グロース市場への上場を果たした2017年のプレスリリースでは、「単独で何かを達成する」という内容のプレスリリースを多く配信していた。たとえば、2017年9月6日の『2017年8月の月間動画再生回数が初めて30億回を突破』というプレスリリースは、まさに当時のUUUMの勢いをよく表している。こう書かれている。UUUM(ウーム)株式会社(本社:東京都港区、代表取締役:鎌田和樹、以下UUUM)は、2017年8月の月間動画再生回数が当社設立して初めて30億回を突破したことをお知らせいたします。(中略)また、2017年8月には当社所属のクリエイターグループであるフィッシャーズのメインチャンネルが、国内で史上初めて単体チャンネルとして月間動画再生回数が3億回を突破いたしました。フィッシャーズは過去2年間で飛躍的に再生回数を伸ばしており、今では当社を代表するクリエイターグループとなっております。今回達成した月間動画再生回数30億回も、こうした様々なクリエイターの成長により成し遂げられたものと考えており、当社では引き続き一人でも多くのクリエイターが活躍できるフィールド、サービスを提供していきたいと考えております。(PRTIMESより)また、UUUMが開発・配信に関わっているホラーゲーム『青鬼』も当時、小中学生の間で大人気だった。2017年3月10日には、『青鬼2』の250万ダウンロード突破を伝えるプレスリリースを公表している。UUUMの上場は、このような目覚ましい記録をひっさげての出来事だったのだ。ショート動画の台頭で苦戦このような「視聴回数〇〇万回達成」や「〇〇万ダウンロード突破」という内容のプレスリリースは、UUUMの株価が最高値に達した2019年頃まで多く配信されている。では、昨年(2024年)はどうだったか。2024年にUUUMがPRTIMESで配信したプレスリリースは82件。なお、2019年は56件だった。2024年のプレスリリースで目立つのはセミナーの予定や他業種の企業とのコラボ企画、社会活動への参加を伝えるもの。「UUUM単独で前例のない記録を達成した」というトーンのプレスリリースは、ほとんど配信されていない。青鬼シリーズは以前と変わらず人気であるものの、かつてのHIKAKIN氏やはじめしゃちょー氏を凌駕するようなスターがUUUMから登場しているとは言いがたい。たとえるならば、1950年代半ばまでのプロ野球巨人軍のスターは、川上哲治や千葉茂だった。彼らが引退すると、直後に長嶋茂雄と王貞治が登場し、栄光のV9時代を呼び寄せた。そんなONがバットを置くと、今度は「野球の天才」原辰徳が登場し、巨人の人気を支え続けた――。そうした絶え間ないスターの継承がUUUMではどうだったか。UUUMの失速の最大要因として、「ショート動画の台頭」がよく言及される。東証グロース市場への上場を実現させた頃のUUUMは、「より長い動画の配信」を目指していた。YouTubeの場合、尺の長い動画であればあるほど広告を多く挟むことができ、それが巨大な収益につながる。しかし、今流行っているのは「より短い動画」だ。ショート動画はスマホの持ち位置を変えずに、まるで回転寿司のような感覚で動画を次々に視聴することができる。だが、これは動画配信者にとっては、広告収益の大幅低下を意味している。HIKAKIN氏やはじめしゃちょー氏を凌駕するYouTuberが登場しなかったのは、このようなショート動画の台頭も多分に影響しているのだろう。(澤田真一)
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