名前は明かされなかったけれど―「もう、それで十分だった」
その日を境に、毎日のように現れていた問題の車は、ぴたりと姿を消した。それ以降、無断駐車は一切なくなったという。
「管理会社からは、『どの住人かはお伝えできません』と言われました。たぶんプライバシーへの配慮なんでしょうけど、正直もう知りたいとも思いませんでした」
「警察に通報」という一言が、なによりも効果的なブレーキとなった――。
「今思えば、もっと早く行動していればよかったのかもしれません。でも、当時の私は、『赤ちゃんが起きてしまう』。たったそれだけのことさえ、声を上げるのに勇気が必要でした」
吉川さんの言葉には、子育て中の母親ならではの静かな怒りと、揺るがぬ決意が感じられた。