夏休みの帰省や旅行で、新幹線を利用する人も多い時期。快適な移動の裏には、騒音や荷物の扱いなど、思わぬトラブルが潜んでいることもある――。
1歳と4歳の子どもを連れて、義理の実家がある東京へ新幹線で向かっていた三浦あかりさん(仮名・30代)。
「なるべく周囲に迷惑をかけないように」と、事前に車両最後尾の指定席と特大荷物スペースを予約。子どもが泣いてもすぐにデッキに出られるよう、準備を整えていた。
静かに、スムーズに目的地へたどり着く――。そんな想定は、乗車後すぐに崩れ去った。
隣席ではじまった「宴会モード」に子どもがぐずり出す
発車してしばらくすると通路を挟んだ隣の席に、2人組の中年男性が現れた。席に座るなりテーブルを勢いよく倒し、お酒とおつまみを広げて「宴会モード」がスタートした。
「新幹線で軽く飲むのはよくあることですけど、あのときは完全に『居酒屋のノリ』でした。缶ビールや缶チューハイが次々と開けられて、笑い声もどんどん大きくなっていきました」
とくに辛かったのは、下の子どもがウトウトとし始めたタイミングで、大きな笑い声が響いたときだったという。
「一瞬で目が覚めてしまって、それからずっとグズグズでした。上の子まで不機嫌になるし、もう地獄です」
男性たちは、子どもがいることをまったく気にしていない様子だった。三浦さんは、子連れという立場もあり、周囲に遠慮して声をかけることさえためらわれたようだ。
座席を替えることはできず、騒いでいるとはいえ法的に問題があるわけでもない。三浦さんは2時間半、ただ耐えるしかなかった。
「荷物がない!?」 到着直前の「もうひとつの事件」
ようやく東京駅が近づき、下車の準備をしようと特大荷物スペースへと向かった。ところが――。
「スーツケースもリュックも、置いたはずの場所に見当たらなかったんです。頭が真っ白になりました」
慌てて周囲を見渡しデッキに出て、ようやくスーツケースを発見。その後、7列ほど前の座席上にリュックがあったという。幸い中身は無事だったが、誰が動かしたのかはわからなかった。
「特大荷物スペースは、今は予約制です(※編注)。それを知らずに移動させたのかもしれません。でも、せめて一言伝えてくれていれば......と思ってしまいます」
荷物がないと気づいてから見つかるまで、体感で3分ほど。だが、子連れの移動を考えれば、その3分は決して短くはない。
「静かに過ごしたいだけ」なのに、現実は思うようにいかない...
「もちろん、新幹線は誰もが自由に移動できる空間ですし、楽しみ方は人それぞれです。でも、少しの配慮があるだけで、救われる人もいるんです」
今回のように、直接的な暴言や迷惑行為がなかったとしても、「居合わせた相手」によってはそれが大きなストレスとなる。とくに、子連れでの長距離移動は、「静かに過ごす努力」だけで精一杯なことも多いだろう。
「せっかく完璧な準備をしても、すべてがうまくいくとは限らないんですよね。だからこそ、うちの子たちには『周囲に配慮できる大人』になってほしいと、改めて思いました」
笑い声と荷物騒動に振り回され、"踏んだり蹴ったり"だった新幹線の旅は、到着とともにようやく終わりを迎えた。
「静かに、穏やかに」――それがどれほどむずかしく、尊いことか。三浦さんの胸に残ったのは、「静かに過ごしたかった」という、ただそれだけの願いだった。
(※編注) 「スマートEX」のウェブサイトによると、2025年7月1日以降、一部の新幹線デッキに設けられた「特大荷物コーナー」については、試行的に事前予約不要で利用可能となっている。