世の中がデジタル社会に変わるまで、成人向け雑誌は男性にとって非常に身近なものだったように思う。よく「小学生の頃、河原に捨てられた雑誌をこっそり拾って読んだ」なんて笑い話があるけれど、昔は成人誌が「誰もが一度は触れたことのある存在」だったに違いない。今となっては道端にさえ落ちておらず、手に取ったことさえない若者も増えたことだろう。2018年頃からコンビニでの取り扱いが減り、かつてのように気軽に購入できなくなったのも災いして、めっきり存在感が薄れてしまったのである。しかし、現在も販売が続く雑誌は一定数存在する。店頭から姿を消しても電子書籍に移行するか、懐かしのマガジンが創刊号として復活を遂げるケースも見られるため、成人向け雑誌自体は細く長く残り続ける文化なのだ。成人向け雑誌、販売形態と気になる読者層は?都心のコンビニから姿を消し、書店での専用コーナーが縮小された成人向け雑誌のほとんどが、現在は廃刊に追いやられている。出版社は若い世代を取り込み、発行部数をキープするべく試行錯誤を繰り返したが、紙媒体の衰退には抗えない。もちろん全ての雑誌が終わりを迎えたのではなく、一部はひっそりと残っている。電子書籍に完全移行してリニューアルするほか、未だに冊子として販売されるなど、熱狂的な固定ファンがいればなんとか存続ができるのだ。最近はウェブ販売が主流で、グラビアページの単品購入が可能など「バラ売り」のような販売形態を取ることも多い。「雑誌丸ごとはほしくないけど、推しのグラビアだけは買いたい」と、カユいところに手が届くサービスは読者としても非常に有難いだろう。ガツンと一発売れずとも、「塵も積もれば山となる戦法」で延命を図るところも少なくはないのだ。とはいっても、売り上げが安泰だと断言できる雑誌はない。どこも自転車操業状態なのは事実で、筆者である私の現役時代(2016年~2018年半ば頃)でさえ、出版社の人間が「若い人は雑誌を全然手に取らないから」と嘆いていた。その雑誌はDVDの付録がつくのだが、編集部にしょっちゅう「ディスクの使い方がわからない」という基本操作の問い合わせがくるとのこと......。メインの購入者層がアナログ世代ならば、販売数は大幅に伸びない。販売形態を変えたとしても、雑誌だけでは太刀打ちができないようだ。読者もかなり年齢層が高いとなると、一定の数字はキープできても、盛り返しがかなり難しいように感じる。成人向け雑誌の仕事が激減...限られた人のみが出られる世界に雑誌そのものがなくなれば、誌面を飾る人々の仕事も自ずと減る。活発な時代は表紙~巻頭グラビアから中盤にかけて掲載される「中グラ」とか、ちょっとした企画コーナーが豊富で、雑誌の仕事が演者にとっての憧れだった。小さな企画から表紙へと上り詰める、シンデレラストーリーを夢見る演者も多かったに違いない。今となっては「雑誌やテレビに出ないと有名になれないセオリー」が消失しつつあり、YouTubeやSNSに喰われている。定期的なオファーを得られる確証はなく、大きな影響力がないとなれば、演者や事務所が紙媒体にあまりこだわらなくなってしまうのだ。出版社も資金がカツカツだと、確実に売り上げを作れるタレントばかりを起用して「守り」に入る。たしかに人気者だけで回せばある程度は売れるものの、いつも同じ顔ぶれになるのは何とも悩ましい。今の成人向け雑誌やグラビア誌を見ると一目瞭然だが、登場メンツがだいたい似たり寄ったりになっている。また、「時代は電子書籍」というものの、デジタルに移ったところで一発逆転は非常に難しい。雑誌自体が読者や演者にとって「ひと昔前のもの」という概念に変わった点は否めず、どこかで打開策を見つけなければ、いずれは更に規模が縮小するだろう。ネット上でのファンクラブ運営やInstagramのグラビア投稿などに客が流れているからこそ、出版業界はこれらの強敵とどう付き合い、差別化を図るかが課題である。思えば、成人向け雑誌はサブカルチャー的要素が強い。ある意味では「アダルトコンテンツの時代を築いたツール」だ。子どもの教育に悪いとかその手の話はさておき、雑誌やビデオあっての「今」なので、衰退は言葉に言い表せぬ悲しさを覚える。V字回復に困難を極める業界であるが、なければないで寂しい。それに雑誌の仕事がなくなれば演者にも影響をもたらすと思うと、形を変えながらでも独自の文化をぜひ守り続けてほしいと、勝手ながらに思ってしまうのだ。【プロフィール】たかなし亜妖/2016年にセクシー女優デビュー、2018年半ばに引退しゲーム会社に転職。シナリオライターとして文章のイロハを学び、のちにフリーライターとして独立する。現在は業界の裏側や夜職の実態、漫画レビューなど幅広いジャンルのコラムを執筆中。
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