プロ野球のチケット代が高い 外野指定席が1万2000円!クライマックスシリーズでは「売り方」に批判も

   プロ野球では、日本一を決める大詰めの戦いが繰り広げられている。2025年のシーズン観客総動員数は2704万286人(日本野球機構速報値)で、前年比35万人以上の増加となり、その人気の高さを示したかたちとなっている。

   比較的安価で気軽に球場へ観に行けるのがプロ野球の魅力と言われてきたが、今年はそのチケットが高騰している、という指摘が相次いだ。

  • ヤクルトの本拠地・神宮球場で、外野指定席の価格が「乱高下」
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  • クライマックスシリーズを戦うソフトバンクの本拠地・みずほPayPayドーム福岡
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4300円→1万2000円→当日には500円

   今年、注目されたのはダイナミックプライシング(DP)というチケット購入システムの弊害である。

   DPは対戦カード、曜日や天気、さらに直前販売率や需要予測によって、チケット価格を柔軟に上下させる仕組みで、近年12球団中7つのプロ球団が採用している。

   今年4月29日、東京ヤクルトスワローズのホームゲームとして神宮球場で行われた横浜DeNAベイスターズ戦は、このDPによってホームの外野指定席が1万2000円で売り出された。

   初期販売価格の4300円から約3倍にはねあがったこともあって、売れ行きは伸びなかったようで、当日には500円まで値下げされた。SNSを中心に「ぼったくりではないか」という懸念の声が上がった。

   最大の問題はなぜこの価格になっているのか、という説明がファンになされないことである。

   ゴールデンウィークの初日で、近隣の人気球団ともあって需要が見込まれたことからの価格高騰だったのだろうが、最終的に投げ売りされるようでは、1万2000円で買ったファンは浮かばれまい。

チケット価格が予想できず「ライト層」にはハードル

   こうした問題が、右肩上がりのプロ野球にファン離れを起こすのではないか、という指摘も相次いだ。

   10月16日のパ・リーグクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージ第2戦、福岡ソフトバンクホークス―北海道日本ハムファイターズ戦は、空席が目立ったとの報道が流れた(16日付毎日新聞電子版)。この記事へのコメント欄には、ソフトバンクが導入しているDPと、同球団の本拠地・みずほPayPayドーム福岡の観戦チケット代が高額な点を指摘する書き込みが多く寄せられた。

   プロ球団の収入のうち約33%が入場料とされている。

   とはいえ、入場者の上限はそれぞれのホームスタジアムによって決まっている。たとえば前年度が毎試合満員だった場合、翌年度にそれ以上の収入は見込めなくなってしまう。

   そうしたことからもこのDPは球団として魅力的なシステムではあるのだが、球場に足を運ぼうとする側からすれば、チケット価格が予想できないという問題が起こる。

   とくに、野球に興味を持ち始めたようなライト層にとっては、球場に足を運ぶ大きなハードルになってしまう。

球場体験を商品にした横浜DeNAベイスターズ

   当然ながら球団運営側が望むのは、スタジアムを満席にすることだ。

   テレビ中継などで球場の状況がわかる昨今、空席が多い状況は興行全体の雰囲気や、ブランド価値が下がる可能性がある。

   まずは席を埋めることを考えてから、単価を上げる、という流れが球団運営の構造となっている。

   近年注目されているのが、横浜DeNAベイスターズだ。

   暗黒期が長く、入場者も低迷していた2012年シーズンから親会社となったDeNAは、本業を生かしたウェブ戦略などの導入とともに、ホームスタジアムの横浜スタジアムをTOBで買い取り子会社化、球団運営の黒字化をはかった。

   DeNAが打ち出したのは、スタンドを埋め尽くす観客やグラウンドで繰り広げられる迫力あるプレー――つまり、球場で野球を観戦する体験そのものを商品化する経営だった。

   プレミアム席・BOX席・ペア席など、多様な層に訴えかけられるような座席・料金設計を行い、球場をクリーンにし、さまざまなイベント施策をすることでライト層を取り込みながら、大きな成果を上げてきた。

   2017年にセ・リーグ3位から日本シリーズに進出するなどチーム力が上向くとともに、観客動員もうなぎのぼりになり、2019年にはライト側奥に(3564席)、2020年にはレフト側に(2812席)ウィング席を増設。

   コロナ禍で低迷した時期もあったものの、2023年にはシーズンホームゲーム71試合で総入場者228万927人、1試合平均3万2126人を記録。翌年は同じく72試合で235万8312人、平均3万2754人、今年の速報値では71試合で236万411人、平均3万3245人と確実に観客を増やしている。

相手応援席を遠く離れたウィング席へ......

   こうしたDeNAの企業努力はプロ運営の好例として報じられてきた。

   しかし2024年、セ・リーグ3位から下剋上の日本一を果たし、今年も2位で期待されたなか読売ジャイアンツを迎えたクライマックスシリーズ(CS)で、それまで通常レフトスタンドの一部に設けられていた相手チームの応援席をウィング席に移動させたことが、SNSなどで非難の対象となってしまった。

   『デイリースポーツ』(2025年10月10日付)報道では、チケット部の担当者の言葉として「我々が選手の背中を押し、チームが勝てる環境を作るため、どうしたら良いか。その中で360度、ベイスターズファンで埋めたい」という理由が挙げられている。

   もうひとつ考えられるのは、このCSが興行的に盛り上がるうえ、球団のレジェンドである三浦大輔監督の勇退が伝えられていたことから、ホームゲームである以上、できる限りベイスターズファンを入れたかった、という思いもあったのではないだろうか。

   こればかりは、限られた座席をいかに売るかという難しさが露呈したということだろう。

   かつては気軽なレジャーだったプロ野球観戦。そのモデル自体の見直しを迫られているのかもしれない。

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