高市早苗政権と連立を組む日本維新の会が、「年内に法案を国会提出しなければ連立離脱」と宣言する「衆議院定数の1割削減」法案が2025年内の臨時国会中にまとまるかどうか、衆院の選挙制度改革や定数問題に詳しい衆院選挙制度改革協議会委員の福島伸享議員(無所属)に、「定数削減」法案の行方を聞いた。実現にはいくつもの壁があるという。「年内成立」の当初案を高市総裁が飲んでいたら「ドボン」だった―― 自民維新連立政権の最初の難関と言われる「定数削減」法案、まとまりますか。当初段階で維新が主張していた「比例定数削減1割、年内成立」との案を、高市・自民党総裁が呑んでいたら、その瞬間にドボン(万事休す=政権崩壊)だった、と思います。しかし、結果的に取りまとめられた文章は、目標は「年内実現」じゃなくて、「年内の法案提出」になった。しかも、比例を減らすのか小選挙区を減らすのか、中身を明示せず、なおかつ削減数が「50」かどうかもはっきりせず「1割を目標に」に後退した。「遊び」の部分ができた格好です。今回の所信表明演説で高市さんは「定数是正」に何ひとつ触れませんでした。政治的に微妙な問題で、処理如何で短命に終わるリスクもあるので触れたくなかったんでしょう。結局は、「会期末提出」で審議未了?「比例」削減に小政党が猛烈批判―― 自民党内や維新との間でも、「議員立法案」の中身を決めるまでに、いくつもの壁がありそうです。まず、比例を減らすのか、小選挙区も含めるのか。比例だけを減らした場合、少数政党が徹底して抵抗します。国会運営が相当難しくなる。小選挙区も減らすとなったら、区割りをどうするのかという騒ぎになる。さらに、都市と地方でも、区割りの問題が限界にきています。鳥取県の定数2は維持できるのか。一方で、東京の世田谷区や江戸川区は、一つの区の中で、選挙区が分かれている。東京の都市部は区議会議員選挙より衆議院議員選挙の方が選挙区が狭い。また、定数削減は地方の定数が減ることになる。日本海側の県や四国や九州などで、どんどん定数が減る。これらの地域は元々自民党が強い地域だから選挙区が減ると党内調整が大変になって、法案のまとめが遅れることになります。―― 「定数削減問題」調整の担当になった見られる萩生田光一・幹事長代理は「各党各会派が参加して、最大公約数を作らなくてはいけない。賛成多数で決めるべき内容ではないのは大前提だ」などと、慎重な構えです。追い詰められて逃げ道がなくならないように、どんどん逃げ道を作っていますね。実現しなければ維新は離脱だ、と宣言していますから。結局は、会期末の12月17日近くになって提出することになるんじゃないか。どうせ成立しないんだから「比例だけ削減」ということでまとめちゃえ、と。そうすれば「自維の約束」は果たされる格好になる。審議未了・継続審議となって、予算案成立まで審議できないだろうから、事実上3月まで審議は先送りになります。衆院の「政治改革特別委員会」では、政治資金規制の関連法案も審議します。公明党と国民民主党が企業団体献金の規制強化の法案を作っていて、立憲も乗ろうとしています。維新はもともと「企業団体献金廃止」ですが、これに「反対」とは言いづらい。定数削減の審議をやるなら、その前にまず企業団体献金規制をやれ、という話に、我々野党側としては持ち込みたいのですが。―― 「審議未了」だと、年明けの展開はどうなるんですか?本予算の審議優先ですから、定数削減法案は当面棚上げでしょうね。維新もせっかく与党になったのですから、自分たちの要求が入った本予算が成立しなくては困るわけです。政治改革特別委の審議も3月くらいまで棚上げ。一方で、今年行われた国勢調査の速報値が出る2026年の春頃を目途に、選挙制度改革を議論する議長の下の「衆議院選挙制度協議会」も粛々と審議を進めています。そもそも、この協議会は小選挙区比例代表並立制が続くと現在の東京などの都市部と地方の定数の配分が成り立たなくということから議論が始まっているのですから、定数是正の課題はもともと審議しているのです。私が幹事長を務めている超党派の選挙制度抜本改革議連では今週、各党・会派の代表者で会合をしますが、「定数問題は選挙制度改革の一環として協議会ですべき」という申し入れをしようと思います。現行の小選挙区比例代表並立制に代って「中選挙区連記制」ばかりでなく、都道府県別比例代表制とか、順位投票付き小選挙区制などいろいろアイデアが出始めています。結局は、「3月の協議会の選挙制度改革まとめに合流?」―― その萩生田幹事長代理が、いろいろ用意をする「逃げ道」の一つとして、選挙制度協議会の議論に「丸投げする」という話も一部でささやかれています。「自民・維新の合意文」の末尾に「中選挙区制の導入」などもうたった一文を滑り込ませています。それでも、維新は「連立離脱」しないのでしょうか。(参考)(自民・維新の合意文) 時代にあった選挙制度を確立するため、両党は衆議院議院運営委員会に設置された「衆議院選挙制度に関する協議会」等あらゆる場で議論を主導し、小選挙区比例代表並立制の廃止や中選挙区制の導入なども含め検討する。そのため、令和七年度中に、両党による協議体を設置する。ここで求められているのは「協議体の設置」ですから、結論を出すとまではしておりません。定数問題とは、別と考えるべきでしょう。自民党が定数削減に積極的な姿勢を見せなかったら、早ければ年内にも維新が連立離脱という可能性もある。そうなれば、あっという間に自民単独少数与党に転落して、政権の危機になります。つまり、定数問題は高市政権にとっては地雷原のようなものなのです。―― 自民党の逢沢一郎・選挙制度調査会長を交代させるという噂があります。維新の「定数削減要求」に対してすぐに「論外だ」と批判した人です。これまた自民党内の政局になりかねない。定数削減法案の自民党内の議論もなかなかまとまらない。そのうえに、古川禎久さんをはじめとする選挙制度改革論者がいるわけです。超党派の選挙制度改革議連(福島幹事長)の顧問は、まさに逢沢さんだったり、石破茂前首相や岩屋毅・前外相だったり、石破系の人間が多い。総裁選では小泉進次郎陣営や林芳正陣営にいた人もいる。林さん(総務相)は総裁選で中選挙区制を公約にしていましたね。「高市対反高市」の構図に、火に油を注ぐことになる。(政治ジャーナリスト 菅沼栄一郎)
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