公共の場でのマナー意識が問われている。混雑した電車内も例外ではない。電車内での通話や動画再生、リュックの扱い――。誰もが少しずつ我慢を重ねる中で、他人への配慮が薄れる光景が増えているようだ。特に、朝の通勤電車という限られた空間では、そのわずかな「乱れ」が空気全体を変えてしまうこともある。東京都内で会社員として働く佐藤琴美さん(仮名・20代)は、ある朝、山手線で忘れられない光景を目撃した。声をかけた女性に信じられない言葉を吐き捨て「かなり混み合っていて、ドア付近に立つのが精一杯でした。その時、50代くらいのサラリーマンが無理やり乗り込んできたんです」その男性は乗車した途端、スマートフォンで動画を大音量で再生し始めた。イヤホンを使用せず、ニュース番組の音声を堂々と流し続けたという。「ただでさえ息苦しいのに、その音が電車内全体に響いて本当に気まずかったです。みんな顔をしかめていましたけど、誰も何も言えませんでした」ところが――。数分後、隣にいた女性が勇気を出して声をかけた。「すみません、音がちょっと......」すると、男性は眉をひそめ、信じられない言葉を吐き捨てた。「うるさいと思うなら、お前が降りればいいだろ!」その瞬間、車内の空気は凍りついた。注意したいのにできない...胸に残る「歯がゆさ」「よく言ってくれた、と思いました。でも同時に、怒鳴られた女性の表情が怖くて、自分も何もできなかったことが悔しくなりました」男性は次の駅で下車。その際、舌打ちをしたのだとか。「朝からイヤな気分になってしまって、仕事に行く前にぐったりでした。ほんの数分の出来事なのに、すごく心に残ってしまいました」マナー違反をする人が一人いるだけで、空気全体の秩序が崩れてしまう。しかし、注意することがトラブルを招く時代、誰も動けないまま時間だけが過ぎていった。「正しいことをしても報われない空気が、いちばん腹が立ちます。だからこそ、自分は絶対に同じことはしません」電車内という誰も動けない沈黙の空間。その重い空気が、通勤電車の現実を物語っていた。
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