住宅街では、ごく些細な生活音や日々の行動が、思わぬストレスにつながることがある。とくにペットにまつわるトラブルは、相手に悪気がなくても、気づかないうちに負担が積み重なるケースが少なくない。とある地域で暮らす山本哲也さん(仮名・50代)は、近所を散歩する犬たちの「ある行動」に悩んできたという。家の前で繰り返される「マーキング」夏場に強まるにおい近所では、朝夕になると犬の散歩をする人の姿が自然と増える。山本さんの家の前を通る人も多く、見慣れた光景になっていたが、ひとつ問題があった。犬たちが家の前で「おしっこ」をしていくことだ。「冬はまだいいんですが、夏はにおいが強くなるんです。コンクリートなので、暑さが蒸発してしまうのが原因だと思います」水を撒いて対処していたものの、頻度が増えるにつれ限界を感じ、ついに飼い主へ声をかける決心をしたという。「怒られたらどうしよう......と考えてしまって、すごく緊張しました。失礼にならないよう、ていねいに伝えようと思っていました」ある日、犬が家の前で立ち止まった瞬間、思い切って声をかけた。「すみません、ちょっといいですか?」山本さんは笑顔を心がけながら、事情をひとつずつ説明した。家の前のにおいが強くなっていること、できれば控えてほしいこと、おしっこの後に水をかけてもらえると助かること――。話を聞いた飼い主は少し驚いた様子だったが、こう答えたという。「すみません、気づきませんでした。迷惑をかけていたかもしれませんね」こじれなかったのは気持ちを整えて話せたからその後は大きな問題もなく、散歩コースを変える人や、ペットボトルの水をかけていく人が増えた。ただ、一度だけ危うい場面があったそうだ。別の飼い主が家の前を通ったとき、声をかけようとしたものの......。「その日は自分の機嫌がよくありませんでした。この状態で話すと、不満が伝わってしまうと思い、挨拶だけにしたんです」その判断が、結果的にトラブルを避けたのではないかと話す。「表面上だけていねいにしても、心の中が荒れていると伝わってしまう気がします。とくに近所付き合いにおいては、落ち着いた気持ちで向き合うのが大事だと感じました」山本さんは今も、家の前を歩く犬たちを見守りながら、穏やかな日常を取り戻している。
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