Xでたびたび、「ALT属性」の使い方をめぐる議論を目にする。ALT属性は視覚障がい者など画像を見られない人のために、その内容を文字情報で伝えるために設定するものだ。しかし、本来の目的に沿った使い方をしていない人がいるとの指摘がたびたび見られる。直近でも、農林水産省の公式Xが「野菜のテリーヌ」を紹介する投稿でのALT属性の使い方が波紋を広げた。
農水省のALT属性の使い方は間違っていたのか。ALT属性を設定するときに気を付けるべきこととは――。視覚障がい者の当事者であり、視覚障がい者対応ウェブサイト制作などを手がける岸本将志氏は、人によって捉え方は違うとしつつ、今回のような使い方も「容認されていいんじゃないかなと思います」と話す。
「野菜のテリーヌ」のALT属性にレシピを紹介
ALT属性とは、ウェブサイトの画像に設定する文字情報であり、Xでも画像をアップロードする際に設定することができる。Xでは設定画面に次のような説明も表示される。
「目が不自由な利用者も含め、多くの利用者が画像を理解できるように説明(代替テキストとも呼ばれます)を追加できます」
「簡潔にすることをおすすめしますが、画像の前後関係をよく理解できるように画像の内容を正確に説明してください」
しかし、Xでは画像に関係のない情報をALT属性に設定する人もいる。有料のXプレミアムに未加入の場合、投稿できる文字数は140文字だが、ALT属性は1000文字まで設定可能だ。そのため、投稿本文の続きや詳細を長文で記したい場合や、X内で検索されたくない情報を書き込みたい場合などにALT属性に書き込む、といった使い方が多いようだ。
一方で、こうした使い方は本来の目的に沿っていないとして問題視する声も上がっている。
農水省のXは2025年12月5日、20歳以上の1人1日当たりの野菜摂取目標量、350グラムを達成するために「野菜のテリーヌ」を紹介した。テリーヌを作っている途中と見られるバットに切った野菜が並べられた写真と、テリーヌの完成品の写真も添えた。
1枚目の写真のALT属性には、「野菜と粉寒天を溶かした水が直方体の型に入っている」との画像の説明とともに、「『野菜のテリーヌ』の材料」として「レタス:2~3枚」「にんじん:1/2本」「オクラ:8本」......といった情報も記載されている。
2枚目の完成品の写真のALT属性には、「野菜のテリーヌが皿の上に置かれている」という説明と、「『野菜のテリーヌ』の作り方」として、「(1)水(分量外)を鍋に入れて煮立たせたら、レタス、にんじん、オクラ、ブロッコリーを入れて茹でる。レタスがしんなりしてきたら、すべての野菜を取り出す」......と、レシピ情報が記されている。なお、投稿本文にはこうしたレシピ情報はない。
これに、ALT属性にレシピ情報など画像の内容説明以外の情報を記載するべきではないといった指摘が寄せられた。一方で、「画像の内容は説明されていますし、ついでにレシピもあるということ自体なんも悪くないと思います」といった声も寄せられた。
実際、この使い方は間違っているのだろうか。自身も視覚障がい者であり、視覚障がい者対応ウェブサイト制作やICT講習などを行う「フロッグワークス」(神戸市)の岸本氏に話を聞いた。
ALT属性に必要な情報は「人によって捉え方が違う」
岸本氏は、ALT属性を設定するべきかどうかや何を記載するべきかについてはガイドラインが存在するものの、画像情報をどのような表現で文字に替えて伝えるかについては、「正解がない」と話す。
さらに、「人(視覚障がい者当事者)によって捉え方が違う」とも指摘。今回の農水省のレシピのような補足情報を設定することは「すごく助かる」という人もいれば、こうした情報は「不要だという当事者の声も確かにある」とした。
その上で、岸本氏は今回の農水省の投稿について、「明らかに間違えた使い方をしているようには見えない」との見解だ。1日に必要な野菜を摂ることのできるテリーヌを紹介する投稿で、ALT属性にレシピ情報を加えるというのは、「全体的な目的としては叶っていると思う」とした。「100点ではないけれども、落第点でもない」と評価し、よりよいALT属性の設定の仕方も提案した。
「より万全を尽くすのであれば、例えばレシピは別で投稿して、自分でリポストするとか。そうするとわざわざ画像にレシピ情報を書かなくて済みます。『レシピが気になる人はリポストの方で見てくださいね』とすると良いと思います」
また、1枚目のテリーヌを作っている途中の画像に設定された「野菜のテリーヌが皿の上に置かれている」という説明については、もう少し細かく状況を描写したほうが良いと指摘した。どの部分を細かく描写するかについては、何を伝えたいかによるという。
「下ごしらえの工程が重要であれば、下ごしらえの工程をきちんと書いておくべきだし、それよりも『これだけの野菜食べてくださいね』ということであれば、例えば箱の大きさを書いておいた方が『このくらいの野菜食べないといけないんです』ということが分かりやすいと思います」
ALT属性の使い方めぐり議論も......「こわいな」と思ってほしくない
デジタル庁が公開する「ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック」では、ALT属性は「画像の代わりにその文字を置いてみても違和感がない内容であることが望まれます」と説明されている。しかし岸本氏は、視覚障がいのない人が画像の内容を正確に文字で伝えることは「かなり難しい」と指摘する。
では、画像にALT属性を設定する際にどのような点に気を付けるべきだろうか。
岸本氏はまず、「状況描写を細かくしすぎる必要はない」とした。「例えば、画像に人が5人写っているとして、その全員の服装の特徴や髪の特徴を全部書かないといけないかというと、そんなことはない」とし、伝えたいことに合わせて誰の集合写真か、どこで撮った写真かといったことを、長くなりすぎないように記載してほしいとした。
次に、「優先順位」を意識してほしいとする。例えば、「今日は久しぶりにカレーライスを作りました」という本文とともにカレーライスの写真を投稿したとする。写真のALT属性に「カレーライスの写真」と記載しても、本文にも書いてあるのでわかりきった情報になってしまう。その場合は、「キーマカレーの写真」など詳しい情報を加えて記載すると良いという。
また、詳細情報としてALT属性にレシピなどを記載することは良くないとする人もいるが、岸本氏は「一視覚障がい当事者としては、そういうことも容認されていいんじゃないかなと思います」と話す。
一方で、カレーライスの写真のALT属性に「今日は実は会社で嫌なことがあったので、早めに帰って、スパイスから厳選してカレーを作りました。近所のスパイス屋さんが安かったんです......」といったような写真の内容と関係のない情報を記載することは良くないとした。
XではたびたびALT属性の使い方を指摘する声が見られるが、岸本氏は「正しい使い方を意識するあまり、『ALT属性を使うのはこわいな』と思われてしまうことは避けたい」と訴える。正しい使い方にこだわりすぎず、けれども、元々は視覚障がい者などが内容を理解するための機能だということを意識し、できれば公的な発言や重要な情報には本来の使い方で使ってほしいとした。
また、必ずしも画像にはALT属性を付けなければいけないわけではなく、「本文で画像に書いていることを全部説明して、画像にALT属性を付けないという方法も実際にあります」と説明した。
350g
— 農林水産省 (@MAFF_JAPAN) December 5, 2025
これは、20歳以上の1人1日当たりの野菜摂取目標量です。
この目標達成のためにオススメなのが、野菜の #テリーヌ ????
家庭で簡単に作れるフランス料理で、様々な野菜を取り入れた、見た目も楽しい一皿です。#野菜を食べようプロジェクト pic.twitter.com/hKWFGeMjIT