兵庫県・斎藤元彦知事は、2025年12月23日の定例記者会見で今年の漢字を発表した。今年の漢字は「創」を挙げ、「県民の皆さんにとって大切な政策をしっかり作り上げてきた。新たな躍動する兵庫を作り上げるとともに、新たな兵庫の未来を切り開いていくという思い」と今後の意気込みを語った。
ただ、斎藤知事の思いと裏腹に、知事の周辺は混乱が続いている。
「逃げるな、戻れよ」怒号が飛び交う会見
この1年、定例記者会見で斎藤知事と記者がかみ合わないやりとりとなるのは、元県民局長による告発文書問題を巡るものが多かった。記者の質問に対し、斎藤知事は、
「真摯に受け止める」
「適正、適法に対応している」
「これまで述べさせていただいた通り」
などと話して、記者とのやりとりが平行線となる場面がよく見られた。
3月に発表された第三者委員会の報告書では、元県民局長への対応は公益通報者保護法に違反すると指摘。3月27日の会見で、斎藤知事は「公益通報の各種論点については第三者委員会の指摘は真摯に受け止めながら、一方で異なる考え方もある」と主張し、県としては文書問題に関する「対応は適切だった」とも語っていた。
また、4月23日の会見で、消費者相の国会答弁と知事の認識に違いがあるのでは、と問われた際には、「ご指摘は真摯に受け止める」などと繰り返した。そして、「いろんな指摘は受け止めつつも、県としては県政運営をこれからもしっかりやっていくことが大事」などと県政を前に進めたいといった言い回しもセットで繰り返された。
そして、12月3日の会見では、記者が質問途中だったのにもかかわらず、斎藤知事が退席する出来事も。この日の会見では、知事の発言中に別の記者から「質問にしっかり答えてよ」と声が飛び、知事も幹事社に記者の不規則発言に対して見解を求める荒れる会見となった。退席する斎藤知事に記者から「終わってない」「逃げるな、戻れよ」と怒号が飛んだ。
一方、兵庫県は12月24日、公益通報者保護制度を巡って県の要綱を来年1月1日から改正することを発表。これまでは報道機関などへの外部通報について、保護の対象としていなかったが、要綱では告発者の不利益な取り扱いを防止することを明記した。報道によると、斎藤知事は「今後とも職員等への研修・周知等を通じて、公益通報者保護法の適切な運用を図ってまいります」とコメントしているという。
「なぜ抗議の声が?」「真摯に受け止めていくのが大事」
斎藤知事の会見は、ほぼ毎週、県庁内の記者会見室で行われている。2025年4月頃から、その会見室近くにある歩道橋で「斎藤辞めろ」などと知事に辞職を求めるデモが行われるようになった。時に質疑応答の声が聞きづらくなるほど、記者会見室にデモの声が響き渡っている。
8月6日の定例記者会見では、斎藤知事が記者の質問に「ちょっとごめんなさい、聞き取れない」などと聞き直す場面が目立った。記者から聞き取れない原因を問われると、斎藤知事は「それは説明できないです。聞き取りにくいというだけですので、もう一度言ってください」と具体的な説明を避け、「これ以上はお答え一緒になります」とぴしゃり。
記者が、
「外部の抗議の声が大きくなっているからと推察するんですけれど、なぜ大きくなっているのか」
と質しても、斎藤知事は、
「私はさまざまな批判やご指摘というものに真摯に受け止めていくというのが大事」
と、かみ合わないやりとりが続いた。
配置換えになった記者の悲痛の声に具体的なコメントせず
7月には、記者が会見で発言した内容を巡り、会社側に抗議が寄せられ、その記者が配置換えとなる事態が起きた。
配置換えが決まった記者は、7月29日の会見で「ネットの人たちがこぞって兵庫県に集まり、兵庫県がそういう遊び場になっていると私は思います。こうすることで記者が萎縮して、職員や議員が萎縮していくわけですけれども、斎藤知事が推し進める風通しのいい職場づくりは実現するのでしょうか」と訴えた。そして、知事の姿勢について、次のように質した。
「いつも震源地にいるのは知事です。知事しかこの状況を変えられないと私は思っています。なのに、知事はこの状況を問題に思っているようにも、変えようと思っているようにも見えません。いつまでこんなことが続くのか、続けるのかと私は思っています」
この発言に対して、斎藤知事は「冒頭、ご私見の方を述べたというふうに思いますけども」と述べた上で、週1回の定例会見では、県の発表をした後に、記者からの質疑にできるだけ対応しているとして、記者の発言に対して具体的なコメントはなかった。
定例記者会見には、在阪メディアや地元紙、フリーの記者などが出席している。会見の様子は、YouTubeで複数のメディアが生配信しており、SNS上では斎藤知事と記者とのやりとりを中心に多くの切り抜き動画が投稿されている。
会見のまとめ動画では、約10万回再生されたものもあり、ネット上で注目を集めるコンテンツとなっている。こうした動画の中には、記者の行動や態度を批判するトーンの内容もあり、記者も「誹謗中傷」の対象となっている現状がある。
斎藤知事の「テンプレ回答」はいつまで?
斎藤知事は「真摯に受け止める」「適正、適法に対応している」など、記者の質問の内容を踏まえないまま、事前に答えを用意した「テンプレ回答」をすることで、質問そのものに答えないことがある。そのため、幹事社からは知事に対し「質問の趣旨を的確に捉え、より率直なご回答をいただけますようお願いしたい」と要望することが最近の記者会見で続いている。
記者団からは知事に対し「質問の趣旨を的確に捉え、より率直なご回答をいただけますようお願いしたい」と複数回、要望する事態となっている。
斎藤知事の任期は2028年11月まで。任期終了までかみ合わないやりとりが続くのか、来年こそ知事から率直な回答が返ってくることを願いたいものだ。