2026年4月12日、第93回自民党大会が開かれた。そのステージ上で、国歌斉唱の大役を任されたのは、自衛隊の制服(演奏服装)を身にまとった現役の女性陸上自衛隊員だった。
しかし、この行動に対し、直後から自衛隊法に抵触するのではないかとの疑問の声が噴出した。
小泉防衛相「自衛隊の音楽隊を誇り」投稿を削除
自衛隊法第61条には、自衛隊員による政治的行為の制限について、以下のように定められている。
「隊員は、政党又は政令で定める政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法をもってするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除くほか、政令で定める政治的行為をしてはならない」
つまり、自衛隊員が制服を着用したまま特定の政党、とりわけ政権与党の最高意思決定機関である党大会に参加することは、この条文に抵触するのではないかとの疑念が生じている。
その一方で、政府側は違法には当たらないとの見解を示した。
自民党の小泉進次郎防衛相は、記者会見や国会答弁で「自衛隊法違反には当たらない」と繰り返し、その理由について「職務としてではなく、私人として旧知の民間人からの依頼を受けて国歌を歌唱したため」と説明した。
もっとも、制服を着用していた点や、自衛官として紹介されていた点を踏まえると、「私人」と位置づけることの妥当性については議論の余地がある。
実際、自民党広報のXアカウント(@jimin_koho)でも、このときの様子が写真付きで投稿され、「陸上自衛隊中央音楽隊所属のソプラノ歌手である #○○○ さん(編註:原文は実名)のリードによる #国歌 斉唱です」と説明されている。
さらに小泉防衛相自身もX(@shinjirokoiz)で、「全国から党員らが結集する自民党にとって重要な場で国歌斉唱の大役を担ってくれた」「○○さん(原文は実名)をはじめ自衛隊の音楽隊を誇りに思います」との文章とともに、当該自衛官と握手するツーショット写真を掲載していた。
防衛相自らがSNSで発信していた点を踏まえると、結果として広報的な役割を担っていたとも受け取れる。
なお、この件が問題化すると、小泉防衛相はこの投稿を削除し、「事実関係などを確認するため、いったん取り消した」と釈明している。
「政治家は、現場の自衛官と防衛省の職員を守るべき」
「当事者意識の欠如」は防衛相にとどまらない。自民党総裁であり党大会の主役でもある高市早苗首相もまた、他人事のような発言に終始している。
高市首相は記者団の取材に対し、「特定の政党への支援を呼びかけたわけではない」ため「法律的に問題はない」と述べた。
そのうえで、
「当日会場に到着するまで、自衛隊員が出席することは知らなかった」
と発言した。
こうした自民党および政府の対応に対し、与党側の日本維新の会の藤田文武共同代表も、
「あえて言うなら不適切だったと評価せざるを得ない」
と発言した。
最も厳しい苦言を呈したのが、国民民主党の榛葉賀津也幹事長である。
14日の参議院外交防衛委員会で、榛葉氏は次のように述べた。
「政治家は、現場の自衛官と防衛省の職員を守るべきだ」
「これでは、彼女がかわいそうだ。この3等陸曹には全く責任はない」
「私人だから」という政府の弁明は、言い換えれば「組織としての責任はなく、当該自衛官個人の責任による行為だ」と解釈されかねない。
現場の若い自衛官を批判の矢面に立たせ、自民党の政治家が責任を回避していると受け取られても仕方がないだろう。
責任転嫁は予算案問題でも
今回の問題で見られた、都合の悪いことを現場や他者に押し付ける「責任の所在をめぐる曖昧さ」は、他の政策運営においても指摘されている。
その例として挙げられるのが、先般の「予算案の年度内成立断念」をめぐる騒動である。
2月の衆議院選挙を強行した高市首相は、自らの求心力を高めるためにも、予算案の年度内成立に強いこだわりを見せていた。
しかし、衆議院では数の力で可決したものの、審議が不十分であるとして参議院の反発を受け、年度内成立は実現しなかった。
特に強く反発したのは、参議院の自民党議員たちだったとされる。
この件について、高市首相は参院自民党議員に対して強い不満を示し、自身の意向に従わなかった身内を批判したと報じられている。
しかし、衆議院で可決されたからといって、参議院が追認機関として無批判に通過させる義務はない。
むしろ参議院は「良識の府」として、法案や予算案を改めて精査する役割を担っている。したがって、参院自民党議員の対応は、立法府の一員としての職務を全うしたものといえる。
それにもかかわらず、事態が思いどおりに進まなかった責任を「参議院の抵抗」に転嫁し、自らの政治的調整不足や強引な国会運営を省みないのであれば、それは的外れと言わざるを得ない。
総裁選や衆院選での勝利によって得た強大な権力に慢心し、独善的な空気が政権中枢に蔓延しているのであれば、この一件を機に改めるべきではないだろうか。