2024年 3月 29日 (金)

「やじきた道中 てれすこ」
勘三郎と榎本明、うまいけれども噛み合わない

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   江戸の人情噺と落語を取り入れ、「笑い」と「人情」で綴る弥次・喜多の珍道中、という触れ込みだ。

(C)『てれすこ』講中
(C)『てれすこ』講中

   落語のネタを基にした、人情の機微に触れた洒落たストーリーを期待するが、安倍照雄の構成も脚本も消化不良で今ひとつ。題名の「てれすこ」にしても大阪で起きた事件で、江戸の弥次・喜多には関係ない。宮藤官九郎の「真夜中の弥次さん喜多さん」の評判が良かったからか、はたまた中村勘三郎が不肖の息子、七之助に負けまいとしたのか(あんなアウトローの弥次・喜多なんかあるものか、本物を見せてやる、とか)、ともかくこの「やじきた道中 てれすこ」は不完全燃焼もいいところ。旅も西へ向かうのだが、大阪どころかはるか手前の駿河が目的地なのだ。

   演技は中村勘三郎の弥次さんがうまいし、柄本明の喜多さんも悪くない、と言いたいが、芝居の質が違う。それぞれ異なる分野では上手だが、二人の演技が噛み合っていない。まあ伝統芸能の歌舞伎とアングラの劇団乾電池では、出身の下地が天と地だから仕方がない。

   弥次喜多道中に、誰でも知っている落語をちりばめている。「てれすこ」は、珍しい魚の名を聞かれ「てれすこ」と答えた男が次に呼び出されて、乾燥したてれすこを「すてれんきょう」と呼んだことからの騒動。他にしゃれこうべが美女に変わる「野晒し」、狸汁になるところを助けられた狸が博打のサイコロに化けて恩返しする「狸賽」、下手の囲碁好き(ここでは将棋だが)の「笠碁」などなどをエピソードに織り込んだ筋立てだ。

   品川の遊郭で偶然顔を合わせた幼馴染の弥次さん(中村勘三郎)と喜多さん(柄本明)の二人は、お父っつぁんが死にそうだから、と涙ながらに訴える花魁のお喜乃(小泉今日子)の足抜けを手伝う。地廻り(松重豊)の目を潜る「親孝行」でございという、一人で人形の二役をやる物乞いが可笑しい。花魁が人形に化けて地回りの目をくらますのだ。大井川を渡り、駿河を目指す3人にいろんな素っ頓狂な事件が起こる。

   映画の冒頭は「おさんと与平衛」。淡路恵子のおさんと笑福亭松之助の与平衛がしっとりと心中の道行き。ところが、へんてこな怪物「てれすこ」が現れて2人を脅し、心中どころか仲違いする場面は笑える。しかし後がこの調子では続かない。

   11月の映画端境期の公開だというが、作品の出来は今一。監督の平山秀幸は「しゃべれども しゃべれども」で落語ものに取り組んだが、「愛を乞う人」などシリアスなものが得意の人。小泉今日子の花魁も可愛くないし魅力が無い。役通りトウが立っているしヒロインは無理だ。中村勘三郎は相変わらずべらんめえ口調が心地良く、乗って好演しているだけに、映画が役不足で残念だ。せっかくタイトルに持って来た「てれすこ」。もっときっちりとしたオチをつけて欲しい。

恵介
★★★☆☆
やじきた道中 てれすこ
2007年日本映画、松竹配給、1時間48分、2007年11月10日公開
監督:平山秀幸
出演:中村勘三郎 / 柄本明 / 小泉今日子
公式サイト:http://www.telesco-movie.com/
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