<夢売るふたり>
松たか子が壊れていく!「夫の留守に自慰」「握りしめる包丁」静かに耐える妻の孤独

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(C)2012「夢売るふたり」製作委員会
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   東京の片隅で小料理屋を営んでいた貫也(阿部サダヲ)と里子(松たか子)の夫婦は、不注意で火事を出し店を失ってしまう。「再び自分たちの店を持つ」という夢をかなえるため、二人が計画したのが結婚詐欺による再建資金の調達だった。里子が女たちの心の隙間を見つけ、貫也が言葉巧みにだましていく。最初はうまくいっていた夢売り(結婚詐欺)だったが、うまくいけばいくほど二人の間に溝が広がり、ついには思いもよらない事態になっていく。

「店を再建したい」夫婦で納得した結婚詐欺だったはずが…

   松たか子は「告白」(2010年)で復讐の鬼と化した主人公を演じたあたりから、ぐんと演技の幅を広げた感がある。そんな松の怪演に支えられた映画だった。夫に女の所へ行くように勧めていた里子も、度重なるとに孤独感にむしばまれていく。しかし、「弱音を吐かずどんな時も前向きな妻」という顔を夫に見せてきた彼女は、貫也に素直に不満をぶちまけることができない。文句一つ言わず静かに耐える。

   そのストレスは尋常ではなく、反動は大きい。夫のいない間の自慰行為、トイレから出て淡々と下着に生理用品を取り付ける瞬間、夫に殺意を感じるのか衝動的に包丁をにぎりしめる場面など、「エッ、こんな演技を松たか子が!」というシーンの数々に、とにかく衝撃を受けた。「告白」の狂気のような怖さとはまったく別の、艶めかしささえ感じさせる恐怖だ。松たか子という女優の底力をまたも思い知らされた。

都会の寂しい女たちを騙し続ける夫の狂気―阿部サダヲの目ヂカラに説得力

   都会のさみしい女たちを次々と手玉にとる貫也役に、いかにもモテそうなイケメンではなく、阿部サダヲを配したところにも西川美和監督のセンスが光る。もともと愛嬌者の貫也が女を騙し続けるうちに孤独になっていく。その複雑な胸中を阿部サダヲのあの持ち前の目力だけで語らせるシーンは、見ごたえがあった。

   お互いに信頼し合っていた夫婦なのだから、どちらにも「もうやめよう」と言い出すタイミングは何度もあったのに、そのひと言が言えず、いつの間にか引き返せないところまできてしまう。純粋な愛も夢も、手段を間違えれば悪になるということか…。「ゆれる」(2006年)や「ディア・ドクター」(2009年)ほどパンチはないものの、今回も誰もが楽しめるエンターティメントを西川監督は提供してくれた。

バード

おススメ度:☆☆☆

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