2018年 11月 17日 (土)

仮釈放もあったのに平尾龍磨なぜ脱獄?生活態度には厳しい「自主・自律」の開放型刑務所

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   愛媛・今治市の「塀のない刑務所」から逃走した平尾龍磨受刑者は、広島・尾道市の向島に潜んでいるらしいが、13日目になる21日(2018年4月)も依然、として行方は分からないままだ。

   平尾が逃げ出した松山刑務所大井造船作業場は開放型施設と呼ばれ、受刑者の再犯防止の切り札とされるものだ。塀も鉄格子も、部屋の鍵すらない。部屋の移動も自由。受刑者は一般の作業員と一緒に鉄板加工や溶接などの作業をする。そうした作業を体験して資格を取り、社会復帰につなげる。その効果は明らかで、2016年の刑法犯の再犯率は48.7%と過去最悪だったが、「開放型」ではわずか6.9%だった。

   入所には模範囚というだけでなく、いくつもの条件がある。まず凶悪犯、性犯罪、放火犯、覚せい剤犯でないこと。暴力団との関係があると除かれる。45歳以下。IQが80以上。性格に偏りがない。作業意欲がある。仮釈放が見込める・・・など厳しい。

受刑者たちが自らルールを決め、毎日の反省会

   平尾は仮釈放もありえた。なのになぜ脱獄したのか。ノンフィクション作家で、ここを取材したこともある斎藤充功さんは「なにか、よほどの理由があったとしか考えられない」という。施設は刑務官の監督下にはあるが、日々の生活は受刑者の自治ルールで運営されている。逃げ出す理由を見つけにくいが、ただこれまでの57年間に17件20人の逃走が起きている。

   元刑務官は「規律はむしろ厳しいですよ。その悩みを刑務所側が受け止めていたかどうか、疑問があります」と語った。生活ルールは受刑者が決めるのだが、おじぎの角度、移動は隊列を組み、曲がるときは直角、毎日の反省会など、開放型であるがゆえにしっかりした自覚が求められる。ただ規則を守るだけの一般刑務所とは違うのだ。平尾は先月(2018年3月)、刑務官から注意を受けて落ち込んでいたという。

   南山大の沢登文治・教授は「受刑者は5万人。みな個性があり、再犯を繰り返す者も多いですが、初犯で更生意欲の強い人には、こういう施設は必要です」と解説する。他の開放型施設でもそれぞれに工夫された社会復帰の道を試みている。

元受刑者に働く場所提供「職親プロジェクト」職があって収入があって家があれば再犯ない

   顔と名前を出して、取材に応じた元受刑者がいた。大阪のお好み焼きチェーン「千房」で働く若松慎史さんは、窃盗で1年5か月服役した後、昨年12月から働き始め、今月、アルバイトから社員になった。「千房」は全国60店舗で9人の元受刑者が働いている。9年前、社長が再犯率を下げるための受け皿を提供したからだ。個室のある社員寮、新しい洋服、日用品、一律の給与・昇級。ただし、本人の同意の上で過去の経歴をオープンにする。他の従業員と分け隔てなくするためだ。

   若松さんは「気持ちが楽になって、やりやすかったです。いま、(社員になって)信頼されていると感じがしてます」という。平尾には「罪を償って、社会復帰してほしい。絶対に可能です」と言った。

   これが全国の建設、農畜産、飲食、介護など102社が参加する「職親プロジェクト」を生んだ。いま157人の元受刑者が働いている。斎藤さんは「驚きました。これまで300人くらいを取材しましたが、顔はダメ、名前も仮名、年齢すらダメでした。(若松さんは)相当な自信があるということなんでしょう。こういう受け皿が広がってほしいですね」と話した。

   沢登教授もいう。「われわれが何をできるかです。職があって収入があって家があれば、再犯の必要はないんですから」という。今回の逃走劇で、「塀のない刑務所」への風当たりは厳しい。でも、人間の知恵と進歩を信じたい。

   *NHKクローズアップ現代+(2018年4月19日放送「受刑者逃走!塀の無い刑務所の実態」)

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