【連載】ブロードバンド“闘争”東京めたりっく通信物語
24. 総務省は「ブロードバンド大国」の虚栄に踊らされている

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「あのときの東京(1999年~2003年)」 撮影 鷹野 晃
「あのときの東京(1999年~2003年)」 撮影 鷹野 晃

   こうした会社にはありがちなことだが、一度決め最高経営方針は、絶対に変えたりしない。何故なら、軌道修正することは、自らの過ちを認めることであり、権威を失墜することに他ならないからだ。権力の絶対性にひびを入れてはならない。

   これがNTT経営陣の唯一の存続根拠なのだから、当然だ。この会社の最高経営方針がうまく機能しないのは方針のせいでなく、その実行者が悪いからであり、下部に責任がある。あるいは、悪いのは方針に敵対する外部であり環境である。この無謬性神話は、日本の旧軍隊そっくりであり、日本の天皇制的イデオロギーに外ならない。

   この最高経営方針とは、次世代情報通信網を全て光ファイバーに依拠させるFTTH構想である。2010年迄に全国5000万所帯(会社も含む)を光ファイバーで覆い尽くす。そのためには、いくら費用が嵩んでも構わない、社員はいくらでも整理できる、ありったけの経営資源を投入するのだという恐ろしいものである。

   その心はいうまでもない。次世代高速通信網あるいはブロードバンド・ネットワークの「独占」である。現在の「全国加入者電話網」により味をしめたあの「独占」の果実を「光ファイバー」で実らせようというわけだ。

   需要も収支もほとんど無視したこの路線はやや狂気じみて見える。独占確保の維持という卑しい発想から出たものであって、経済的合理性も国民的必要性或いは合意という公共的配慮のいずれも無視している。

   かつて電話網の独占が可能であったのは、公債を買ってでも国民の1人1人が家庭電話を欲しいという熱狂に支えられたからである。需要と供給の経済的合理性は現に存在した。

   しかし、あのような熱気に支えられた希求が、NTTが進める光ファイバーにあるのだろうか。ないと思う。光ファイバーが唯一実現できると思われる、100Mbpsや1Gbpsの帯域を必要とするコンテンツは何処を探しても現時点では存在しない。

   あったとしても、テレビや映画くらいだが、これとてFTTHがなくても如何様にも享受できる。テレビ電話ですら、ADSLのスピードで十分だ。少数の物好きが、一日中、バーチャルリアリティに耽るくらいが関の山。

   しかも、仮にYouTubeのようなものを全国民が見るとしても、米国はじめヘビーコンテンツ発信国がこうした超広帯域を食う馬鹿げたブロードバンドを整備しようなどと考えていないから、光以外のブロードバンドで堪能できるコンテンツしか誕生しない。世界を当てにしても駄目なのである。

   光ファイバーが必要なのは、CATVやADSLや移動体の基地局やデジタルテレビ放送の発信局等のバックボーンに用いられるのが1つ。企業や公共体の膨大な通信需要が2つ。距離の問題でADSLが届かない救済手段が3つ。もっともこれは高速無線という代替手段がある。高い通信料金を払っても苦にしないマニアたちが最後だ。

   これだけの限られた需要のために、膨大な金額をFTTHの設備投資に狂奔することが果たして国益に適うのだろうか、国民経済の面で許されて良いのだろうか。この「狂気の沙汰」のために電話設置負担金7万2000円が泡と消えてしまう。

   国民は既にNTTにざっと3兆円以上をむしり取られてしまった。冗談ではない。そして固定電話網は赤字だから整備を止めると言い出した。FTTHの赤字の何10分の1でしかないというのに。

   総務省(元郵政省)もこの狂気に感染している。

   NTTの光独占の無意味と不気味さを熟知している筈なのに、ブロードバンド大国という虚栄に何故か踊っている。

   現在フレッツ光が急拡大しているのは、採算度外視の顧客独占囲い込みのための一時の成果に過ぎない。いずれ破綻するのが目に見えている。

   その一方で、この国の世界に誇る整備された電話網は腐りつつあり、多様なブロードバンド通信の可能性の芽がつまれようとしている。

   コンテンツの充実や国民的なブロードバンド経験なしに、いきなりFTTHは無意味である。ADSLを過渡的手段として近い将来には全面的にFTTHでよろしいと、脳天気なことを言ってきた付けが回ってきたのかもしれない。NTTという暴走機関車にはブレーキがそもそも付いてないのだ。


【著者プロフィール】
東條 巖(とうじょう いわお)株式会社数理技研取締役会長。 1944年、東京深川生まれ。東京大学工学部卒。同大学院中退の後79年、数理技研設立。東京インターネット誕生を経て、99年に東京めたりっく通信株式会社を創設、代表取締役に就任。2002年、株式会社数理技研社長に復帰、後に会長に退く。東京エンジェルズ社長、NextQ会長などを兼務し、ITベンチャー支援育成の日々を送る。

連載にあたってはJ-CASTニュースへ

東京めたりっく通信株式会社
1999年7月設立されたITベンチャー企業。日本のDSL回線(Digital Subscriber Line)を利用したインターネット常時接続サービスの草分け的存在。2001年6月にソフトバンクグループに買収されるまでにゼロからスタートし、全国で4万5千人のADSLユーザーを集めた。

写真
撮影 鷹野 晃
あのときの東京(1999年~2003年)
鷹野晃
写真家高橋曻氏の助手から独立。人物ポートレート、旅などをテーマに、雑誌、企業PR誌を中心に活動。東京を題材とした写真も多く、著書に「夕暮れ東京」(淡交社2007年)がある。

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