2024年 4月 24日 (水)

LCCは地方にとって チャンスであり、ピンチ 
(連載「LCC革命の衝撃」第6回/観光庁長官・溝畑宏さんに聞く)

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   日本を訪れる外国人の数は年間679万人(2009年)と、全世界で33位という低水準だ。これを、2016年には2000万人、将来的には3000万人にまで引き上げようとしているのが、「観光立国」を目指す観光庁だ。

   観光立国は、政府の成長戦略に盛り込まれている項目のひとつでもある。相次ぐLCCの参入は追い風になるのか。観光庁長官・溝畑宏さんに聞いた。

――観光庁が出来たのは、2008年で、役所の中では、かなり新しい方です。まずは、観光庁は何をするのか、聞かせてください。

溝畑 私がよく言っているのは、「オールジャパンで日本を元気にしよう」ということです。これが「観光立国」の意味です。これまで「観光」という言葉は狭い意味で定義されていました。ですが、観光は全ての産業にとって突破口になり得ます。地域産業の活性化、雇用の創出にもつながります。成長戦略の柱だとも言えます。閣議決定にこれが盛り込まれたのは、極めて大きい意味があります。
   日本はこれまでは物作りの輸出で稼いできましたが、これからはサービス産業・ソフト産業にシフトしていかなければならない。中でも、最も突破口になり得るのが観光です。国民をあげて取り組むべき課題なのです。「観光立国」というミッションを08年にかかげ、10年は、今までになく「観光に全国民をあげて取り組む」という点を、皆さんに意識してもらうことができた年だと思います。

日本より人口の少ないシンガポールと韓国にも負ける

「将来的には、観光客数を3000万人まで引き上げたい」と話す溝畑宏・観光庁長官
「将来的には、観光客数を3000万人まで引き上げたい」と話す溝畑宏・観光庁長官

――09年時点での訪日外国人数は679万人です。この数字を、どのように受け止めていますか。

溝畑 アジアでは言えば、中国・韓国・タイ・マレーシアといった、成長著しい国に比べると、国際競争という観点からの日本の航空・観光政策は遅れていた。これは認めざるを得ません。その結果が、679万人という数字です。世界では33位。日本より人口の少ないシンガポールと韓国にも負けてしまっている。2000年頃にはタイと同じぐらいだったのに、タイは現在17位。大きく差を付けられてしまいました。現状はきわめて屈辱的です。

――具体的には、どのように変えたいと考えていますか。

溝畑 日本は観光についてポテンシャルを持っている。世界的に見ても、治安もいいし、清潔だし、「ルールや時間を守る」という国民気質があるように、規律がある国。北は北海道、南は沖縄まで、非常にバラエティーに富んだ美しい自然もある。観光資源は沢山あるのです。これを、ブランド化、再生化することを目指しています。
   具体的には、訪日外国人を将来、3000万人に増やすことを目指します。英国を訪れる観光者数が約3000万人です。陸続きであるフランス(1位)やスペイン(3位)に追いつく前に、島国である英国(5位)に追いつこう、ということです。

――訪日外国人を増やすと、日本にとって、どんな良いことがあるのでしょうか。

溝畑 日本の観光産業は、国内で、ある意味自立していました。しかし、人口減が始まり、少子高齢化も始まった。全体の観光マーケットもシュリンク(縮小)しています。そこに、国際競争が加わっている。LCCをはじめとする航空自由化政策にとって、この状況は追い風でもある一方、競争は激化しています。ネットの普及と、航空運賃の低廉化によって、日本人客にとって、国内旅行しかなかった選択肢に海外旅行が加わりました。
   つまり、地方の観光地でも、世界のマーケットで通用する競争力を持たないと生き残れません。グローバルに満足されるような観光地を作れば、国内産業の底上げにもなります。これから日本が世界に打って出るという時に、観光は非常に大きな突破口になるし、全ての産業が関連しているという点でも大きな効果が期待できるのです。

――では、訪日外国人を増やすためには、何が必要だと考えていますか。

溝畑 訪日外国人にとって魅力あるアイテムを開拓することです。日本であれば、自然の魅力がありますし、エコツーリズム、グリーンツーリズムが確立しつつあります。世界のマーケットを見据えると、医療観光、スポーツ観光、映画・アニメ・ファッションといった新しいコンテンツを日本全体で掘り起こしたいと考えています。ですから、吉本興業や、ファッションデザイナーなど、色々な業界の方に参画してもらって、日本の魅力をブランド化していくことが重要です。オールジャパンとはそういう意味です。国民をあげて取り組む、ということです。

――2010年には、羽田空港が本格的に国際化されるなど、航空業界でも大きな動きがありました。

溝畑 観光政策と、航空政策とで相乗効果を高めていかないと、観光立国への道は厳しい。国交省が2010年夏に策定した成長戦略でも、このことがうたわれています。そういう意味で、今回、羽田空港の国際化、成田空港の発着枠増加というのは、我々にとって非常に大きな追い風です。羽田・成田以外にも、国際空港、地方空港を含めて、国際的に競争するにあたっての舞台が整ってきたと実感できるのが2010年です。

――どのような手応えがありましたか。

溝畑 訪日外国人は、09年に679万人でしたが、10年は11月末時点で796万人。これだけの円高にもかかわらず、前年同期比約30%の伸び率です。とりわけ韓国・中国は50%前後の伸びを示しています。地方自治体の皆さんの地道な取り組みを含めて、一体となって進めたことが、効果として出始めていると思います。ただ、決して現状には満足していませんし、尖閣諸島の問題で中国・香港からの観光客が9月下旬を境に減少し始めました。そうしたリスクは常にあります。
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